本気度が違う!鳥取県の婚活支援が成功した理由とは?キーマン長谷川氏に直撃

深刻化する少子化問題。その解決の一助となるべく、各自治体が様々な婚活支援に取り組んでいます。中でも、鳥取県が推進する「カップル倍増プロジェクト」は、ユニークなイベントと高いマッチング率で注目を集めています。

今回は、その仕掛け人である鳥取県子ども家庭部 子育て王国課 出会い・婚活支援担当の長谷川和宏さんに、婚活パラダイス編集部がインタビュー。プロジェクト成功の秘訣や、今後の展望について詳しく伺いました。

婚活パラダイス
目次

鳥取県 出会い・婚活支援担当 長谷川和宏さん × 婚活パラダイス編集部 インタビュー対談

長谷川和宏さん

鳥取県子ども家庭部 子育て王国課

出会い・婚活支援担当

長谷川和宏さん

実際のインタビュー写真
実際のインタビュー中の様子

若者の心に響く支援を目指して~鳥取県の挑戦~

編集部: 長谷川さんの鳥取県での取り組み、本当に感動いたしました。実は弊社の運営する「婚活パラダイス」というメディアも、裏目的として少子化対策を掲げています。ただ、ストレートに「少子化対策」と言っても読まれないので、表向きは結婚相談所やマッチングアプリの活用法などを紹介しています。出会いの場が減少している現状は、リクルートさんのデータなどでも明らかで、危機感を覚えます。そんな中、自治体発でこれほど成功されている例は稀有で、非常に感銘を受けました。

長谷川和宏さん

ありがとうございます。

編集部: 早速ですが、知事の方針など、もともと県として子育て支援に力を入れてこられた土壌があったとは思いますが、今回の「カップル倍増プロジェクト」は、どのような経緯で予算がつき、進行していったのでしょうか?

長谷川和宏さん

はい。知事は就任当初から子育て支援に注力しており、「子育て王国鳥取県」をスローガンに様々な施策を展開してきました。

保育料の無償化など、お子さんが生まれてからの支援が中心でした。知事が5期目の選挙に出る際、公約として「シン・子育て王国」を掲げ、その中のプロジェクトの一つとして「カップル倍増プロジェクト」が立ち上がりました。

「年間500組のカップル成立」というマニフェストで当選したこともあり、政策的にも出会い支援・結婚支援に力を入れています。

国の方でも少子化対策の交付金制度が改善され、特に今年度は官民連携の取り組みに対する補助率が引き上げられたこともあり、予算的にも追い風となっています。その中で、メインの施策として「オミカレ」との連携を進めました。

編集部: やる気さえあれば、どの自治体でも同様の取り組みができる環境が整いつつあるのですね。

長谷川和宏さん

そう思います。国もサポートしてくださっているので、あとは庁内での合意形成や説得が重要だと考えています。

成功の鍵は「若者の声」と「強力なパートナーシップ」

編集部: 鳥取県がここまでうまくいった要因をさらに深掘りしたいのですが、知事の号令だけではうまくいかないケースもあるかと思います。現場のチーム作り、特に若者の気持ちに寄り添ったチーム作りはどのように行われたのでしょうか?

長谷川和宏さん

鳥取県では、知事の5期目から県全体で若者の意見に寄り添う機運が醸成されています。

象徴的なのが、20代から30代前半の職員6名で構成される「とっとり未来創造タスクフォース」や、民間の「とっとり若者活躍局」といった組織です。彼らと連携し、政策に若者の声を反映させています。

特に出会い支援や子育て支援は、若い世代がまさに求めている政策であり、彼らの意見を積極的に取り入れています。


編集部: タスクフォース立ち上げのきっかけは何だったのでしょうか?

長谷川和宏さん

やはり、若者の県外流出、特に20代から30代の女性が毎年約1,000人流出しているというデータがあり、社会減に対する危機感があります。

若い方の意見を聞かずして流出は防げないという考えから、これらの組織が立ち上がりました。

流出してしまった方々を呼び戻すためにも、また県内の学生世代にとっても魅力的な地域であると発信するためにも、彼らの意見は不可欠です。

編集部: イベントの企画にも、そうした声が活かされているのですね。「婚活」という言葉を使わないなど、若い世代への配慮が素晴らしいと感じました。

長谷川和宏さん

若者の意見を聞く素地があったことに加え、「オミカレ」さんという強力なパートナーがいたことが大きいです。

行政単独では、あの鳥取砂丘でのイベントは難しかったと思います。企画のアイデアはもちろん、従来の画一的な婚活イベントではなく、ゼロベースで新しい形を提案してくださったのは「オミカレ」さんのおかげです。

鳥取県には、それを受け入れる体制と環境が整っていました。


編集部: プロの婚活アドバイザーである荒木直美さんの存在も大きかったのではないでしょうか。

長谷川和宏さん

まさにその通りです。荒木さんがいなければ、29組という成果は出なかったと思います。

イベント中も、一人でいる方を見つけては声をかけ、参加者同士のコミュニケーションを促すなど、その気配りと視野の広さには本当に助けられました。

▼関連記事

「鳥取モデル」成功の歯車~トップダウンと現場力、そしてプロの力~

編集部: お話を伺っていると、自治体の取り組みを成功させるための要素が見えてきます。まず、首長の強いリーダーシップ。そして、若者の意見を吸い上げ、形にする現場の力。さらに、イベントの設計力やテクノロジーの活用、そして何よりも、参加者の心を掴み、結果に繋げるプロの進行役の存在。これらが噛み合った時に、鳥取砂丘に100名が集まり、29組ものカップルが誕生するという奇跡が起きるのですね。

長谷川和宏さん

本当に、どれか一つが欠けてもうまくいかなかったと思います。見事に歯車が噛み合いました。


編集部: 結婚相談所には年収の壁、マッチングアプリには出会えない問題、街コンにも厳しい現実があります。その点、自治体が主導する質の高いイベントは、参加費も安価で、プロのサポートも受けられるとなると、ある種「無敵」ではないかと感じました。

長谷川和宏さん

過分な評価をいただき、ありがとうございます。

持続可能なモデルへの挑戦と、さらなる広がりへの期待

編集部: とはいえ、これだけのイベントとなると、準備も大変ですよね。開催頻度はどの程度なのでしょうか?

長谷川和宏さん

昨年度は砂丘でのイベント1回のみでしたが、今年度は春・秋・冬の年3回開催する予定です。

夏場は気候的に大規模イベントは厳しいため、この回数が今のところ限界です。



編集部: 長谷川さんご自身は、このお仕事への情熱をどのように維持されているのですか?

長谷川和宏さん

私はこの仕事が大好きなので、あまり疲れを感じません。ただ、私のような人間は稀だと思うので、個人プレーではなく、チームとしていかにカバーし、持続可能な体制を作っていくかが重要です。幸い、鳥取県では今年度から3人チームで取り組んでいます。

編集部: この「鳥取モデル」が、将来的には情熱だけでなく、ある種自動的に回っていくような仕組みになると、少子化問題の解決に大きく貢献しそうですね。

長谷川和宏さん

そうですね。現在は行政が主導していますが、例えば民間の事業者様が収益事業として取り組むのも良いと思います。

例えば、音楽フェスと掛け合わせるなど、様々な可能性があるはずです。行政だけでなく、多様なプレイヤーが関わることで、鳥取県の婚活業界全体が活性化していくことを期待しています。

編集部: 長谷川さんご自身の、この問題解決への原動力は何なのでしょうか?

長谷川和宏さん

課題を見つけると放っておけない性格なんです。社会の課題は、人間の病気や怪我と同じだと思っています。放置すれば悪化するばかりなので、治療しなければなりません。鳥取県が抱える未婚化という課題も、一刻も早く進行を遅らせなければならないという思いが、私の大きな原動力です。

地方の危機感と、東京一極集中の課題

編集部: 日本全体として、人口減少や少子化に対する危機感が、どこか他人事になっている側面があるように感じます。しかし、鳥取県のように人口が少なく、具体的な生活への影響が出始めている地域では、その危機感はより切実なのではないでしょうか。

長谷川和宏さん

間違いなくあると思います。鳥取県は全国で最も人口が少ない県であり続け、出生数もワーストレベルです。

中山間地域ではスーパー等の買い物環境がなくなり、生活が困難になるなど、まさに生き死にに関わる問題に直面しています。

この危機感が、出会い支援や子育て支援に限らず、あらゆる分野での原動力になっていると感じます。



編集部: 東京は予算が潤沢で、一見すると少子化対策が進んでいるように見えますが、合計特殊出生率は全国でも低い水準です。仕事のために東京に出て結婚はするものの、子育てがしにくい、あるいは産みにくいという現実があります。東京への一極集中が少子化をさらに加速させるという悪循環に繋がっています。地方での素晴らしい取り組みが広がり、東京一択ではない価値観が醸成されることが、問題解決の糸口になるのではないかと感じています。

長谷川和宏さん

地方では出会えないという固定観念を覆し、アップデートしていくことが、この砂丘イベントの役割の一つだと考えています。

その意味でも、全国に会員を持つ「オミカレ」さんのような事業者と組めていることは、非常に大きな強みです。

「会える」ことへのコミットメント~マッチングアプリとの違い~

編集部: マッチングアプリは、「会える」ことよりも、課金してもらうことに事業の主眼が置かれがちです。しかし、自治体のイベントは、実際にカップルが成立しなければ意味がありません。だからこそ、集客も運営も本気にならざるを得ない。この「会える」ことへのコミットメントが、マッチングアプリにも導入されれば、状況は劇的に変わるのではないでしょうか。

長谷川和宏さん

「オミカレ」の下永田さんもおっしゃっていましたが、「選ぶ」よりも「知る」、さらにその先に「会う」というフェーズがあるはずです。マッチングアプリは、眺めて良い人がいなければ終わってしまう。

一方で、鳥取のイベントは実際に会える場であり、たとえカップルになれなくても、異性と会話できた、交流できたという成功体験が、参加者のモチベーションに繋がっています。

これは、次のステップへの大切な舞台装置になっていると感じます。

編集部: この取り組みが、他の自治体や事業者に「自分たちもやらなければ」という刺激を与え、良い意味で模倣されていくと素晴らしいですね。

長谷川和宏さん

まさに逆輸入のような形も大歓迎です。イベントからマッチングアプリの活用へ、という流れだけでなく、マッチングアプリ発でスピンオフイベントを行うなど、多様な広がりが出てくれば、全国でこの動きが加速するのではないかと期待しています。

編集部: 本日は、多岐にわたる貴重なお話を本当にありがとうございました。この素晴らしい取り組みが、全国に広がっていくことを心から願っております。今後の展開も、ぜひ取材させていただけますと幸いです。

長谷川和宏さん

こちらこそ、ありがとうございました。ぜひ、またよろしくお願いいたします。

編集後記

今回の長谷川氏へのインタビューを通じて、鳥取県が推進する「カップル倍増プロジェクト」の成功の裏には、トップの強いリーダーシップ、若者の声を真摯に受け止める姿勢、そして「オミカレ」という強力な民間パートナーとの連携という、見事な歯車の噛み合わせがあったことが明らかになった。

特に印象的だったのは、「婚活」という言葉の持つ重苦しさを避け、純粋な出会いの場としての楽しさを追求する姿勢です。これは、ともすれば画一的になりがちな行政主導のイベントにおいて、参加者の本音を引き出し、高いマッチング率へと繋げる重要な要素と言えます。

また、長谷川氏自身の「社会課題を放置できない」という強い使命感と、それを支えるチームの存在も、このプロジェクトを推進する大きな力となっています。

少子化という国難に対し、一筋の光明を灯す鳥取県の取り組み。この「鳥取モデル」が、全国の自治体や結婚・恋愛関係の事業者に刺激を与え、新たなムーブメントを生み出すことを期待したいです。「会える」ことに真摯に向き合う姿勢こそが、未来を切り拓く鍵となるのかもしれない。

(婚活パラダイス編集部)

目次