婚活パラダイス編集部では、恋愛・婚活に関する知見を深めるため、専門家の方々へのインタビューを続けています。今回は、労働経済学をベースに「幸福度」に関する研究を行い、多くの著作を発表されている拓殖大学・佐藤 一磨教授にお話を伺いました。
未婚男性の幸福度が低い背景から、共働き社会で夫婦の負担がどのように変化しているか、さらに今後の研究テーマまで、多角的な視点から詳しく解説いただきます。

拓殖大学 教授 佐藤 一磨さん × 婚活パラダイス編集部 インタビュー

佐藤 一磨 さん
1982年生まれ。慶應義塾大学商学部を卒業後、同大学院商学研究科後期博士課程単位取得退学(博士〈商学〉)。外資系経営コンサルティング会社や明海大学での勤務を経て、2016年より拓殖大学政経学部准教授、2023年から教授を務める。

幸福度研究に至る経緯
— まずは先生のこれまでのご経歴についてお伺いします。もともと労働経済学を研究されていて、外資系コンサル会社での実務経験もおありと聞きました。その後、大学に戻られてから「幸福度」の研究に取り組まれるようになったそうですね。

はい。私は博士課程を修了後、1年ほどサラリーマンを経験したのですが、なかなか厳しい世界で「自分には合わないかもしれない」と思いました。
その後、明海大学で労働経済学を中心に研究・教育に携わり、約6年ほど勤めた後に、現在の拓殖大学へ移ったんです。
ちょうど移った直後くらいに他の先生と共同で「幸福度」を扱うプロジェクトに参加し、そこから徐々に幸福度の分析へ研究を広げるようになりました。
独身男性の幸福度が低い理由
— 先生の著書で印象的だったのが「独身男性の幸福度が最も低い」というデータです。既婚男性・既婚女性・独身女性と比べても、独身男性が特に低い。
一方で20代の独身男性はそこまで低くなくても、40~50代になって非正規雇用や低収入のままだと、幸福度がグッと下がって平均値を押し下げているように見えます。



おっしゃる通りです。国全体として、年齢が上がるにつれ幸福度はやや下がりやすいのですが、未婚男性は下がり幅が特に大きいんです。
とりわけ「就職氷河期世代」と言われる40代後半~50代あたりは、正規雇用に就きにくかった世代でもあり、雇用の不安定さが幸福度を低下させる大きな要因になっています。
年齢差結婚と男女の価値観変化
— 一昔前なら「男性が年上で年収が高い」といった条件だけでも結婚しやすい時代があったと聞きますが、今は女性のほうも「自分が働くなら、そこまで年齢差は要らない」と考える方が多く、年が離れた男性は逆に不利になっているという声を結婚相談所などでよく聞きます。



そうですね。かつては“3歳上”や“年上男性”が当たり前だったお見合い文化も、今はかなり様変わりしています。
共働きが一般的になっていくと「夫=稼ぎ手、妻=家事育児担当」という性別役割分業が薄れ、夫婦の年齢差も一層縮まる傾向が出る。
その一方で、中途半端に年齢が高いだけ、あるいは少しだけ年収が高いだけだと、かえって婚活市場でアピールがしづらくなるケースがあるかもしれませんね。
妻の管理職と夫の幸福度
— 先生の研究で面白かったのは「妻が専業主婦でいるほうが夫の幸福度は高く、妻が管理職として働くと夫の幸福度が大きく下がる」というデータでした。これは日本の男性がまだ「自分こそが家計を担わねば」という意識を強く持っているからでしょうか。



そうだと思います。日本ではやはり「男性が大黒柱」という前提がいまだに強く、妻がバリバリ働くことで男性が負い目を感じる場合があります。
イギリスの研究でも同様に「妻がフルタイムの正社員で、夫が失業中など不安定な状態だと夫の幸福度が下がる」という傾向があります。
世界的に見ても、男女平等が進んだ国でも完全には克服できていない問題なんですね。
保育サービスの差が招く格差
— 共働きが進むと育児と仕事の両立が必須になります。ただ日本の場合、保育施設や公共サービスの不足、利用のしづらさなどが課題ですよね。
結果的に「祖父母に頼らざるを得ない」「母親一人で負担を抱えこむ」などになって、みんなの幸福度が下がりかねない状況があるように思います。



海外でも国によって事情は異なります。アメリカなら高所得者層がベビーシッターなど外部サービスを利用しやすいし、北欧の国々では公的保育制度が手厚い。
一方日本はその中間くらいで、「公共サービスがやや不足ぎみだけれど、富裕層でなければ民間のサービスも使いづらい」という二重の問題があります。
子どもがいる世帯が少数派になりつつあるなかで、保育や子育て支援に大きく税金を充てる政治判断が難しくなっている面も大きいですね。
今後の研究テーマ
— 最後に、先生ご自身が今後取り組みたい研究テーマなどございましたら教えてください。



1つは「夫婦間の負担バランス」に注目しています。妻が管理職になっても家事育児時間をほとんど妻が負担しているなど、アンバランスな分担が女性の幸福度を下げている可能性を、エビデンスで示したいですね。
また、海外で指摘されている「女性の幸福度のパラドックス」──女性は男性より幸福度は高い一方、メンタル不調も多い──が日本でも起きているのかを分析したいと思っています。
さらに、これまでは「子どもを持つと女性の幸福度が下がる」と言われがちでしたが、最近では育児に積極参加する男性も増えてきました。今後は男性の幸福度がどう変化していくか、追いかけてみたいですね。
編集後記
結婚や子育てが「負担増」というイメージを持たれやすい日本社会で、実際にどうすれば幸福度を高められるのかを追求している佐藤教授のお話は、非常に示唆に富んでいました。
婚活パラダイスとしては、これからも専門家の知見を発信し、恋愛や婚活のリアルな状況を捉えながら、より良いパートナーシップの在り方を考えていきます。
結婚相談所・マッチングアプリ・自治体の婚活イベントなど、多様な“出会い”を提供する場の情報も幅広く発信し続ける予定です。今後もぜひご期待ください。