結婚相談所やマッチングアプリが当たり前になった今も、「なかなか理想の相手と出会えない」「恋愛や婚活がうまくいかない」と悩む人は少なくありません。
そんな“行き詰まり”を「哲学×カウンセリング」で解きほぐすのが、作家・カウンセラーのひとみしょうさん。
「自分の構造を知る」「自分の中にある言葉にならない気持ちを見つめる」など、ユニークなアプローチで数多くの相談者をサポートしてきたひとみしょうさんに、婚活がうまくいかない背景や、迷いや苦しみの原因を乗り越えるヒントを伺いました。

婚活パラダイス編集部 × ひとみしょうさん スペシャル対談

作家・哲学者・カウンセラー
ひとみしょう さん
幼少期から「なんか寂しいとは何か」を問い続け、42歳で大学哲学科へ進学。キルケゴール哲学との出合いを機に寂しさの本質を見出し、在学中に哲学エッセイや小説を出版。46歳で特待生かつ首席として卒業した後は「哲学塾カント」でさらに研鑽を積みながら、カウンセリングや執筆活動など多方面で活躍している。

自己紹介と経歴について
編集部
本日はよろしくお願いいたします。 今日は、作家・カウンセラーでいらっしゃる「ひとみしょう」さんにお話を伺います。ひとみしょうさんは哲学、それも特にキルケゴールをリスペクトされていて、著書も拝読しました。
私には少し難しい部分もありましたが、恋愛や婚活の悩みを哲学的にアプローチするのは新鮮で、ぜひ詳しくお伺いできればと思います。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。
編集部
早速ですが、ひとみしょうさんの経歴を改めて伺いたいです。もともと作詞家や広告プランナーとして活躍され、その後ウェブライターやコラムニストとしても活動されていますよね。さらに大学で哲学の研究も始められたということで、まさに“異色”の経歴かと思います。
どういった流れで、哲学に至られたのかお話いただけますか?



はい。最初は小説家になろうと思ったんですよ。これはもう30年くらい前です。まだワープロが出始めた頃ですね。
大量に原稿用紙を書くのが大変で、「作詞のほうが短いし、楽じゃない?」と思って始めたんです。
ところが36歳頃、10数年前になりますが、やっぱり小説を書こうと思って書いたところ、自分で書いた小説を「直す」ことができなかったんですね。小説って普通、書いては直し、書いては直しを繰り返すんですけど、それがどうしてもできない。
「みんなはどうやってるんだろう?」と思ってネットで調べていたら、芥川賞作家の川上未映子さんが「日本大学で哲学を勉強していました」とインタビューで話していたんです。
「小説のコンセプトって、ある意味哲学だよな。じゃあ自分も哲学をちゃんと勉強しよう」と思ったのが、42歳頃。実際に日本大学に入ろうと決めたのが大きな流れですね。
編集部
なるほど。独学である程度は本を読まれていたにしても、大学で本格的に学ぼうと思われたということでしょうか。



はい。もともと私は「ドイツ哲学のように、言葉で言葉を洗う感じの哲学」にはさほど興味がなくてカント哲学とか、難解なロジックを積み上げるものはちょっとピンとこないんです。
もっと生活の中から生まれる問い――たとえば「どうしてこんなに好きなのに彼(彼女)は振り向いてくれないの?」「片想いの苦しみってなんだろう?」みたいな、身近で切実な問いにこそ関心があったんですね。昔から恋愛に関する悩みや感情を考えるのが好きで。
そこで、キルケゴールの著作に触れたんですが、彼も「恋愛の苦悩から哲学的問いを立ち上げる」タイプの思想家なんです。
彼自身、大恋愛の末に大失恋したと言われていて、そこから「自分にしかわからない絶望」「自分でも理由がわからない強烈な想い」にアプローチした。
「あ、こういう哲学があるんだ」と知ったことで、自分の中でガチッとはまった感じですね。
広告プランナー、ウェブライターからカウンセラーへ
編集部
そもそも哲学を独学で学び始めたときから、「問いの立て方」に限界を感じたという経緯もあったそうですね。



そうなんです。独学で本を読むだけだと、「本当の問い」ではないものを追いかけてしまうことが多い。
疑似的な問いにハマるというか。問いの立て方が甘いと、哲学的には行き詰まります。大学で学んだことで、その辺が少しは上達したのかなと思います。
あとは、広告プランナーやウェブライターとしての経験がかなり活きています。
もともと30代半ばくらいまでは、電通の案件に携わってけっこう良い報酬をいただいてたんです。でも2011年の震災後、広告仕事が激減してしまって。
それで何か文章を書ける仕事はないかと探していたら、まさにウェブメディアの黎明期で、最初は「引っ越しをテーマに100記事書いて」という“100円ライター”的な仕事からスタートしたんです。
しばらくして「恋愛コラムを書いている人がいるが、自分も書けそうだぞ」と思って応募したら、これが受かった。そこから『小学館』のウェブメディア「Menjoy!」で連載するようになって、タイトル付けやキャッチコピーが得意だったこともあってアクセスを取れるようになったんですよ。
すると、Yahoo!ニュースやLINEニュース、スマートニュースにも転載されたりして、「キャバ嬢に取材して恋愛コラムを書いてください」みたいな依頼を受けるようになった。
その頃にはキャバクラで「ひとみしょうさんのコラム読んでます」と言われたりして。2011年から約10年くらいずっとそんな感じで恋愛コラムを量産していました。
同時期に日本大学で哲学を学んでいたので、「キャバ嬢や風俗嬢に話を聞く実地の経験」「哲学的な視点」「恋愛コラム執筆」の3つが偶然にも合致したんでしょうね。
編集部
なるほど。そこからカウンセラーとして活動されるようになったのは?



作家として本を出した時に、出版社の社長から「今の時代、作家が自ら一般社団法人やスクールを立ち上げて、自分の読者を集め、本を直接売っていくんですよ。出版社も体力がないし」という話をされて。それじゃあやってみようかと。
ホームページを作ると、それなりに相談が来るようになって、徐々にさまざまな悩みを受けるようになりました。今もいろいろな相談者さんがいらっしゃいます。
ただし、いわゆる「まったく治らない方」もたくさんいますし、いきなり病院の薬を飲んでいる方だとカウンセリングでできることが限られてしまいます。大人の方って価値観や考え方が固定されているので、問いの立て方を変えるのが難しいんですね。
“自分にしかわからない気持ち”が問題の核心
編集部
現代の心理カウンセリングでは認知行動療法が主流ですが、ひとみしょうさんはあまりポジティブには捉えていないようですね。その理由は?



認知行動療法は、たとえて言えば「厚紙に折り目をつける」みたいな感じだと捉えています。たとえば「会社がつまらない」という認知を「会社は楽しい」と思い直しましょう、みたいな。
もちろんそれで救われる部分はあると思いますが、本当の問題は「認知を変えようとしても変わらないもの」が必ずあるということなんです。フロイトの言葉を使えば「死への欲動」みたいな無意識的エネルギーですね。そういう領域を扱うのが、本来は哲学や精神分析。
たとえば、「振られてすごく苦しいのに、どうしても彼じゃないと嫌だ」という感情は「朝早起きしてセロトニンを出そう!」では片付かないですよね。脳内物質の話だけでは説明できないし、本人もなぜそこまで執着してしまうのか自分でも分からない。
キルケゴールはそういう「自分でも説明できない強烈な想い」をずっと掘り下げていた哲学者だと思います。
カウンセリングの進め方と、悩みの解きほぐし方
編集部
ひとみしょうさんのカウンセリングでは、具体的にどんな流れで話を進めるのかを知りたいです。たとえば「毒親に悩む人」を想定すると、まずはどういうアプローチをされますか?



病院で双極性障害などの診断を受けている重度のケースだと、最初の数回はただただ話を聞くしかないですね。
一方で比較的軽症の方なら、「空席の椅子(チェアワーク)」という方法などをやります。目の前に親がいると仮定して、「言いたいことを箇条書きにする」「逆に自分が親になったつもりで答える」など、関係そのものを俯瞰して可視化する感じです。
婚活にしても離婚にしても「相手がいる悩み」なら、自分の心だけをどうにかするのではなく、「相手も含めた関係の中で起こる問題だ」という捉え方をするわけです。
編集部
婚活でいえば、振られてトラウマになって結婚に踏み切れない、理想の人を追いかけるあまり結局進まないなど、悩みはいろいろありますよね。



結論としては「恋愛とは、自分に欠けているものを持っている相手を求める行為である」と思うんです。だからこそ、自分にないものがなぜないのか納得しない限り、同じ過ちを繰り返してしまう。
言い方を変えれば「自分らしさ」や「生まれ持った良さ」を見失い、世間が作った理想像に自分をはめようとして苦しんでいる人が非常に多いわけです。
たとえば、大手企業であること、年収が高いこと、顔立ちが良いこと……その数字や肩書きしか見ずに結婚相手を選べば、あとで「こんなはずじゃなかった」となりますよね。婚活パーティーやマッチングアプリが便利なぶん、どうしても“数値”に囚われやすい。
逆に言えば、自分が何を本当に望んでいるのか、どんな構造の中に生きているのかを知れば、運命任せの要素をうまく味方につけることもできるんじゃないかと思います。
「自分にしかわからない苦しみ」とどう付き合うか
編集部
カウンセリングを受けても、実際はなかなか「抜け出せない」方もいらっしゃいますよね。そこは率直にどう思われますか?



正直、大人はそう簡単に変わらないんです。「頭ではわかっている、でも辞められない」「別れられない」というケースをよく見る。
私自身「本当に治るのかな」と感じることは多いですよ。
頑張って話を聞いて、いろいろ提案しても、最後に「でもやっぱり彼と別れたくないです」って言われると、拍子抜けすることもあります。もちろんカウンセリング料をいただいてますし、その方が納得するまで話を聞くというプロセスには意味があるのですが……。
正直、話を聞いて安心感を与えるくらいしかできないこともあるわけです。本人が「親との物理的・精神的な縁を切る覚悟を持つ」とか「環境を一気に変える行動をとる」とか、そこまで踏み出してもらわないと根本的な解決は難しい。
それでも「自分らしさ」を知ることが婚活にも有効
編集部
そうした中で、比較的軽い悩み――「マリッジブルーになった」「マッチングアプリでなぜかうまくいかない」くらいの方が、ひとみさんのカウンセリングでは対応しやすいということでしょうか?



正直そうですね。病院に通っていない方、薬漬けになっていない方のほうが話がスムーズです。
婚活で「なかなかいい人に出会えない」とか「理想が高すぎるのかもしれないけど下げられない」とか、「また相手を逃しちゃった」という程度なら、まだ修正しやすい。
結局みなさん、自分が持っている良さを隠して「理想の婚活女子/婚活男子」になろうと苦しんでいる。そこに気づけば案外早く解決する場合も多いですよ。
編集部
ビジネスとしての展望について伺いたいです。もっと塾やカウンセリングを大きくしたいなどはありますか?



特に大きくするつもりはありません。私は個人で自由にやっているのが性に合っていますし、今は夜は高校生向けの「人見読解塾」で国語や小論文を教えて、昼はカウンセリング、合間に執筆活動、という生活で十分なんです。
もし大企業や資本が絡むと、もっとマニュアル的な対応や分かりやすい成果を求められると思います。でも私がやっているのは、「言葉にできないもの」「本人すら自覚できない思い」を扱う部分なので、そこを量産型にはしたくないのが本音ですね。
ただ、私はこれからも本は書いていきたいですし、コラムのご依頼をいただくならありがたいと思っています。実際、以前はYahoo!ニュースで連載していましたが、最近はコンプライアンスが厳しくなってしまって、自分が書きたいような内容は載せにくくなってきています。
世の中は「心理学=科学」という方向へさらに進んでいくでしょうし、脳科学などのほうが大企業には受け入れられやすい。けれど、その流れの中でこぼれ落ちるものが必ずある。そこを拾うカウンセラーや作家として活動していきたいんです。
編集部
「なんでも科学的に解決する」という価値観の陰で取りこぼされる人たちを支援していきたい、ということですね。



そうですね。日本ではどうしても「とにかく明るく元気に!」とか「セロトニンを増やして鬱を撃退!」みたいな論調が好まれますが、それだけでは救えない苦しみがたくさんあります。
恋愛や結婚がうまくいかない悩みだってそう。
「自分はなぜこの相手に惹かれるんだろう?」という問いや、「どうしても親との縁が切れない」みたいな人生の構造そのものを見直す作業が必要な人は、確実に一定数いると思います。
そこを、哲学や対話で支援する存在であり続けたいですね。
実際、「もうダメかも」と思っていたけど、ちょっとした気づきや問いの立て直しで変わる人はいますから。もちろん全員がそうとは言いませんが。話を聞いてほしい方は来ていただければと思います。
編集部
本日はありがとうございました!
インタビューを終えて
恋愛・婚活の悩みを「哲学」と掛け合わせ、かつ長年にわたり夜の仕事をする女性への取材経験ももつ、ひとみしょうさんの視点は非常にユニークです。
「自分ではどうしようもないほど苦しい想いを抱えている人」には、認知行動療法的なアプローチだけでは足りない部分があることもたしか。
しかし一方で、「“本来の自分”をもう一度再確認する」というシンプルな作業が大きく人生を動かす事例もあるといいます。
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本インタビューは、あくまで個人の経験と見解によるものであり、医学的・法的アドバイスを目的とするものではありません。もし深刻な症状がある場合は専門医の診断を受けてください。
婚活パラダイス編集部では、今後も専門家や相談所の方に取材していきます。悩みを抱えている方へ、さまざまな角度からのヒントをお届けできれば幸いです。
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