止まりかけた5回を、止めずに通した。
月2万件の育毛剤D2Cで起きた決済速度・在庫逼迫・行政指摘・計測の過剰発火・後払い与信と、その対処
月1万件を超えると、問題は「起きるかどうか」ではなく「いつ起きるか」になります。年商100億円規模の健康美容メーカーの育毛剤D2Cで、3年のあいだに配信が止まりかけた場面は5回ありました。5回とも配信を全停止せずに通しています。何が起きて、どう気づき、当日に何をして、なぜ止めなかったのか。同じ場所で止まる会社が減るように、そのまま書きます。
5回
3年で配信が止まりかけた回数
0回
配信の全停止。請求の争いも0回
60→4秒
BOT起動〜決済。最大メディアが10日で稼働
34.6→2.9%
後払いの再審査率
SCOPE / 関与した範囲
クライアント名・メディア名・ベンダー名・決済事業者名は契約上非公開です。管理画面と図は特定を避けるため加工し、件数の軸は非表示にしています。数字は当社が主導した案件の運用記録・ASP管理画面・成果報酬請求の実数で、公開済みのものだけを使っています。時期は特定を避けるため年単位で示します。
前提:メディアは自腹で広告費を払っている。止まった枠は戻らない
成果報酬型の大型メディアは、自分の広告費で記事や動画を配信し、成果が承認された分だけ受け取ります。案件が止まると、その日のうちに枠は他の案件へ回ります。再開しても、配信量は元に戻りません。つまり広告主側にとって、配信の「全停止」は問題への対処ではなく、それ自体が最大の損失です。この案件で5回の問題が起きたとき、私たちの判断の基準は一貫して「止めずに通す方法があるか」でした。
メディアは先行投資している
制作費と広告費を先に払い、承認された成果で回収する。3ヶ月で終わる案件、止まる案件には最初から動かない。
枠は当日に他案件へ回る
メディアは複数案件を同時に運用している。1案件が止まれば、その運用者と予算は当日中に別の案件に移る。
だから全停止は最後の手段
該当メディア・該当経路・該当表現だけを止め、残りは上限をかけて流す。この記事の5回は、すべてこの型で通している。


LIFRELL注
この5回は、この案件に特有の事故ではありません。月1万件を超える定期型D2Cなら、順番と時期が多少違うだけで同じことが起きます。違いが出るのは「起きるかどうか」ではなく「起きたときに何が先に用意されているか」です。この案件では、最初の90日で線引き表・注文データとの突合・在庫連動の上限を先に作ってありました。5回のうち4回は、その道具をそのまま使っています。
止まりかけた5回(起きた順)
それぞれ「状況/気づいた経路/当日からやったこと/止めなかった判断/結果」の順で書きます。数値のうち公開できるものだけを載せ、件数の軸は伏せています。
1 / 1年目 立ち上げ期
決済速度:BOT起動から決済まで60秒。最大メディアの配信が始まらない
状況
最大メディアの立ち上げ時。LPからチャットBOTを起動して決済が完了するまでに60秒近くかかり、途中離脱が多い。メディア側のタグと当方のタグが干渉し、特定のOSとアプリ内ブラウザでは決済が完了しない事象もあった。
気づいた経路
メディアの運用者からの初日の報告と、当方の実機テスト。数字が出る前に「遅い」「買えない」が分かった。
当日からやったこと
タグ干渉は当日に切り分けて修正。アプリ内ブラウザの購入不可は再現して原因を特定。BOTベンダーで根本原因が出なかったため、原因特定を待たずに別のカートを緊急契約し、数営業日で移設した。
止めなかった判断
「原因が出るまで待つ」を選ばなかった。メディアは待たない。原因が出なくても動ける手(カート移設)を先に打ち、原因究明は並行で進めた。
結果:起動〜決済が60秒から4秒に。最大メディアが10日で稼働し、翌月にはLINE広告の全アカウントで配信量首位になった。

LIFRELL注
メディアは「遷移率1%・決済完了までの秒数」で案件を選びます。60秒のBOTは、どれだけCVRの根拠があっても配信が回りません。ベンダーの原因究明を待つのが普通ですが、待っている間にメディアは他案件に移ります。外部CMOとして入っている意味は、ベンダーの契約を組み替える判断をその場でできることです。
2 / 1年目 後半
在庫逼迫:獲得が発注リードタイムを追い越した
状況
獲得が伸び、月間の獲得件数が在庫の発注リードタイムを追い越す局面に入った。このまま伸ばすと欠品で全停止になる。
気づいた経路
在庫の残数と獲得の伸びを週次で突き合わせていた。欠品する前に「あと何週間で切れるか」が見えていた。
当日からやったこと
在庫の残数と発注リードタイムから、メディアごとの配信上限を設定。回っているメディアから順に枠を配分し、入荷・増産のたびに上限を段階的に引き上げた。上限の通知を誰がいつ出すかを決め、経営会議で増産の判断を取った。
止めなかった判断
欠品を待って止めるのではなく、上限をかけて「細く流し続ける」を選んだ。メディア側にも上限と解放の見込みを先に伝え、枠を残してもらった。
結果:欠品による配信停止はゼロ。増産に合わせて上限を解放し、月2万件規模を維持したまま通過した。

LIFRELL注
獲得を伸ばす会社が最初にぶつかるのは広告ではなく在庫です。「上限をかける」のはブレーキに見えますが、実際は「止まらないためのアクセル」です。上限があるからメディアは枠を残してくれる。上限がないと、欠品した瞬間にメディアは離れて戻りません。
3 / 2年目 前半
行政と業界団体からの表現の指摘
状況
都道府県の薬務課から、LP・記事の表現について複数項目の指摘。別途、業界団体からも記事表現の指摘が来た。責任は広告主に来る。放置すれば配信停止、最悪は措置命令の対象になる。
気づいた経路
行政からの連絡は広告主に来る。当方が窓口として同席し、指摘の内容と根拠をその場で確認した。
当日からやったこと
指摘を「NG/条件付き/代替表現あり」の3つに仕分け。効能の言い切りを、言える範囲の成分・機序の表現に置き換えた。行政と直接やり取りして落とし所を確認し、LP・BOT・記事・動画の該当箇所を一覧にして各メディアへ一斉展開。修正済みから順に配信を継続した。
止めなかった判断
全停止して全部直してから再開、を選ばなかった。線引き表が先にあったので、仕分けと代替表現の作成が当日で終わる。修正済みの箇所から順に流し、未修正の表現だけを止めた。
結果:配信を止めずに指摘に対応。線引き表を更新し、その後の2商材目にもそのまま移植した。行政・業界団体からの再指摘は起きていない。

LIFRELL注
レギュレーションは「禁止リスト」だと、指摘が来たときに全部を止めるしかなくなります。「代替表現つきの線引き表」だと、指摘された表現の隣に代替案がすでにあるので、当日に差し替えられます。行政対応の窓口を広告主側の当方が持ち、メディアには修正指示だけが届く形にすると、メディアは不安にならずに配信を続けます。
4 / 2年目
計測の過剰発火:計測CVが注文データより多い
状況
ある日から、ASPのタグで計測されたCVが、カートの注文データより多くなった。特定の経路でサンクスページが複数回読み込まれ、タグが多重に発火していた。放置すると、実際の注文より多い成果を請求されることになる。
気づいた経路
注文データと計測CVを日次で突き合わせる運用にしていたので、乖離が出た日に検知できた。ASPの管理画面だけを見ていたら気づけない。
当日からやったこと
注文番号のないCVを無効にする遮断ルールを当日投入。ワンタグ内ワンタグの設計で1注文1発火に固定した。乖離分は請求前に控除し、根拠として注文データをメディアと共有した。
止めなかった判断
計測を止めて調査、を選ばなかった。遮断ルールを先に入れて数字を正しくし、原因究明は並行で進めた。メディアには「控除する根拠」を数字で示したので、関係は壊れていない。
結果:乖離は当日で解消。承認率99%台・不正率2%以下を維持し、メディアとの請求の争いは3年間一度も起きていない。

LIFRELL注
メディアは案件ごとの個別最適が仕事で、計測・照合の仕組みは持っていません。過剰発火を放置すると、広告主は払いすぎ、後から気づいたときに否認が起きてメディアとの関係が壊れます。「広告主側でタグ設計を持ち、注文データと日次で突合する」は、獲得が伸びる前に入れておく必要があります。
5 / 通年
後払い与信落ち:獲得しても決済が通らない
状況
後払い決済で、注文の3割超が再審査に回っていた。獲得としては計上されるが、決済が通らなければ売上にならず、成果報酬だけが発生する。
気づいた経路
決済事業者からの再審査率の報告と、注文データの突合。再審査に回った注文を原因別に分類した。
当日からやったこと
原因を3つに分解。①決済事業者の審査条件が案件の初回価格・定期条件と噛み合っていない、②BOT内で入力した情報が決済側に正しく渡っていない、③特定経路の流入に事後審査が必要。それぞれ、審査条件の再交渉、導線の項目修正、事後審査の設定で対処した。
止めなかった判断
後払いを止めて前払いだけにする、を選ばなかった。後払いはCVRを支える決済手段で、止めるとCVRが落ちてメディアが離れる。決済事業者との条件を組み替え、導線を直す方を選んだ。
結果:再審査率は34.6%から2.9%に。獲得件数を落とさず、売上にならない注文をほぼ無くした。

LIFRELL注
与信落ちは「決済事業者の問題」に見えますが、多くは広告主側のオファーと導線の設計の問題です。初回価格と定期条件を審査の型に合わせ、BOTの入力項目を決済側の必須項目に合わせるだけで、大半は解消します。決済事業者と条件を交渉できるのは広告主側だけなので、ここもメディアには任せられません。
5回に共通した「止めない」判断の型
5回の内容はばらばらですが、動き方は同じです。検知して、当日に診断して、部分停止か上限で流し続け、修正済みから再開する。この4段階を、起きる前から手順として持っています。

1検知は「日次」で「1枚」
獲得・CVR・承認率・与信・在庫を1枚で見る。基準を割った行が赤くなる形にしておくと、気づくのが「翌週の報告」ではなく「その日」になる。5回とも、検知はこの1枚から始まっている。
2当日診断は「原因が出なくても動ける手」を先に決める
原因の候補を3つに絞り、当日中に切り分ける。ただし原因が出るまで待たない。カート移設、遮断ルール、上限設定は、原因が分からなくても打てる手として先に決めておく。
3止めるのは「該当箇所だけ」
該当メディア・該当経路・該当表現だけを止め、残りは上限をかけて流す。全停止は、法令上の即時停止が必要な場合以外は選ばない。
4再開条件を数字で先に決め、メディアと共有する
「修正が終わったら」ではなく「この数値になったら」で再開を決める。メディアに先に伝えておくと、枠を残してもらえる。
5回の一覧
検知の経路、初動、止めた範囲、再開までを並べます。「止めた範囲」の列が、この記事で一番伝えたいところです。
| 起きたこと | 検知 | 初動(当日) | 止めた範囲 | 再開まで |
|---|---|---|---|---|
| ① 決済速度(60秒) | メディア初日の報告・実機テスト | タグ干渉を修正。カートを緊急契約 | 止めていない(配信開始前) | 10日で4秒・稼働 |
| ② 在庫逼迫 | 在庫残と獲得の週次突合 | メディア別の配信上限を設定 | 上限のみ。停止なし | 入荷・増産ごとに段階解放 |
| ③ 行政・業界団体の指摘 | 行政からの連絡(当方が窓口) | 線引き表で仕分け、代替表現作成 | 未修正の表現のみ | 修正済みから順に当日〜数日 |
| ④ 計測の過剰発火 | 注文データとの日次突合 | 注文番号なしCVを遮断 | 該当経路の計測のみ | 当日 |
| ⑤ 後払い与信落ち | 決済事業者の報告・注文データ | 原因を3分解。審査条件を再交渉 | 止めていない | 再審査率34.6%→2.9% |
3年続いた理由は、獲得の速さではなく「止まらなかったこと」
全停止 0回
5回すべて部分停止・上限・当日修正で通過
承認率99%台
不正率2%以下。請求の争い0回
大型メディア5社
3年継続。全ジャンルの広告消化額ランキング2位
大型メディアが3年同じ案件を回し続けるのは珍しいことです。理由を聞くと「止まらないから」と言われます。獲得単価が高いからでも、商品が良いからでもなく、問題が起きたときに配信が止まらず、請求が揉めず、再開条件が先に分かる。メディアにとってそれは「先行投資が回収できる案件」という意味です。
5回の対処に使った道具のうち、線引き表・注文データとの突合・在庫連動の上限・決済の審査条件は、最初の90日で作ってあったものです。起きてから作ったのは、遮断ルールの細部と後払いの事後審査だけでした。2商材目では、この5回で更新した道具をそのまま移植し、同じ問題が起きる前に手順を持った状態で立ち上げています(別記事)。
この事例について、よく聞かれること
Q.行政の指摘が来たら、止めるのが正しいのでは?
A.指摘された表現は止めます。ただし「指摘された表現」と「配信全体」は別です。該当箇所を当日に差し替え、修正済みから順に流す。法令上の即時停止が必要な場合は別ですが、多くの指摘は表現の修正で対応できます。線引き表が先にあれば当日で終わります。
Q.計測の過剰発火は、ASPが検知してくれないのですか?
A.ASPの管理画面はタグの発火を数えるだけで、カートの注文データは持っていません。乖離は広告主側で注文データと突き合わせないと分かりません。日次で突合する運用を、獲得が伸びる前に入れておく必要があります。
Q.在庫が少ないうちは上限は不要ですか?
A.逆です。在庫が少ないほど上限が要ります。上限を決めずに始めると、最初の伸びで欠品して止まります。月数百件からでも、在庫と発注リードタイムから上限を決めて始めます。
Q.ベンダーの契約を組み替える判断は、誰がしたのですか?
A.当方が提案し、クライアントの経営が当日に判断しました。外部CMOとして経営会議に入っているので、ベンダー変更のような判断も1〜2週間ではなく当日で決まります。この速さがないと、メディアは待ってくれません。
Q.育毛剤以外でも同じことが起きますか?
A.起きます。規制の種類(薬機法・景表法・特商法)と決済の型は商材で変わりますが、決済速度・在庫・表現指摘・計測・与信の5つは、月1万件を超える定期型D2Cならほぼ同じ順番で来ます。手順は移植できます。
この事例から持ち帰れる7つ
- 01成果報酬のメディアは自腹で配信している。全停止は対処ではなく、最大の損失。
- 02月1万件を超えると、決済速度・在庫・表現指摘・計測・与信の5つはほぼ必ず来る。起きる前に手順を持つ。
- 03検知は日次で1枚。翌週の報告で気づく体制では、メディアはすでに離れている。
- 04原因が出るまで待たない。原因が分からなくても打てる手(上限・遮断・移設)を先に決めておく。
- 05止めるのは該当メディア・該当経路・該当表現だけ。残りは上限をかけて流す。
- 06計測・在庫・与信の仕組みはメディアもASPも持っていない。広告主側で持つ。
- 073年続く案件の条件は、獲得の速さより「止まらないこと」。メディアはそれを先行投資の回収可能性として見ている。
御社の配信は、この5つが来たときに止まらないか。
30分で診断します。
計測・在庫・規定・決済の現状を見て、止まる箇所と先に用意すべき手順をその場でお伝えします。費用はかかりません。

