Facebook広告のコンバージョンAPI導入前に押さえるべき5つのポイント【完全ガイド】

監修者

佐藤 祐介
佐藤 祐介

株式会社LIFRELL代表取締役。大手代理店、株式会社オプト、電通デジタルの2社でアカウントプランナーを経験。その後、株式会社すららネットでインハウスマーケターとして事業の立ち上げからマザーズ上場水準まで事業を伸長させる。マーケティング戦略の立案からSEO/WEB広告/SNS/アフィリエイト等の施策で売上にコミット。

専門家

深瀬 正貴
深瀬 正貴

Yahoo株式会社 法人マーケソリューション出身。 鎌倉の海のそばでオフィスFHを運営。 リスティングやSEOをはじめとしたデジタルマーケティングで100社以上の売り上げ課題を解決。
最近の趣味はブームに乗っかったように見えてしまう「焚き火ごはん」。

目次

2021年10月20日にFacebook社から発表されたコンバージョンAPIゲートウェイの提供開始は、多くの業界関係者やマーケティング担当者にとって、注目すべきニュースでした。この新しいツールは、コンバージョンAPIの実装をより手軽に、そして効率的に行うことができるよう設計されています。

この革新的なゲートウェイの導入により、これまでコンバージョンAPIの導入に躊躇していた方々も、そのメリットを再考し、積極的に導入を検討し始めることでしょう。コンバージョンAPIゲートウェイの話題性と、実装のしやすさは、多くの方々にとって魅力的に映りますが、一方で、「実際に導入は簡単なのか?」「導入を急ぐべき理由はあるのか?」といった疑問を持つ方も少なくないはずです。

導入前に押さえておきたい重要なポイントを5つ紹介します。これらのポイントは、必ずしも広く知られているわけではありませんが、コンバージョンAPIを取り入れる際には非常に役立つ情報です。

公式なガイドラインやドキュメントにも記載されているこれらの情報ですが、日常の業務の中で見落としがちな点に焦点を当てています。この記事を通じて、コンバージョンAPIの導入を検討されている皆様が、より明確な理解を持ち、スムーズな導入プロセスを経験されることを願っています。

コンバージョンAPIの本質は「どのようにしてデータを送るか」ということ

コンバージョンAPIの導入は、デジタルマーケティングにおける重要な転換点となり得ます。特に、同意プラットフォームやデバイスによるCookieの制約から自由になりたいと考える場合、この技術は非常に有効です。

しかし、重要なのは、コンバージョンAPIが単なるデータ送信の手段であり、その機能を最大限に活用することが目的であるという認識を持つことです。たとえば、Facebook Pixelを用いずにデータをFacebookに送信する方法として、このAPIを考えることができますが、その本質は「どのようにしてデータを送るか」ということに他なりません。

物流におけるトラックと荷物の関係性に例えると、Facebook PixelとコンバージョンAPIはそれぞれ異なる「道路」を表し、イベントデータや顧客データ(個人情報)は「荷物」として捉えることができます。従来はFacebook Pixelという一本の道を通じて目的地にデータを運んでいたのに対し、コンバージョンAPIは新たに開かれたバイパスのような存在と言えるでしょう。

さらに、コンバージョンAPIを利用する方法は多岐にわたります。直接システムに組み込む、Shopifyなどのパートナープラットフォームを介して利用する、Google タグマネージャーを通じて実装する、あるいはコンバージョンAPIゲートウェイを使用するなど、選択肢は様々です。これを、異なるトラックメーカーの車両を使って荷物を運ぶことと比較すると、手段の違いに過ぎないことが理解できます。

結局のところ、コンバージョンAPIを通じてCookieの制限を超えた計測が可能になるかどうかは、どのようなデータをFacebookに送信するかにかかっています。もし送信されるデータがFacebook Pixelを用いた場合に比べて不十分であれば、目指すべき計測精度の向上は実現しません。

したがって、コンバージョンAPIの導入が最終目標ではなく、この技術を用いて必要なデータを効果的にFacebookに送信できる状態を作り出すことが、実際の目標と言えるでしょう。このような視点からコンバージョンAPIの導入を考えることで、より有効なデジタルマーケティング戦略を実現することができます。

計測精度を高めるためにすること

計測精度を高めるためには、顧客の詳細な情報を含むカスタマー情報パラメーターをFacebookに送信することが必要です。

前述した通り、単にコンバージョンAPIを導入しただけでは、広告キャンペーンの計測精度を向上させることは難しいです。では、計測精度を本質的に高めるためには何が必要かというと、それは顧客の詳細な情報を含むカスタマー情報パラメーターをFacebookに送信することにあります。

このプロセスは、Facebookが広告主から提供された個人情報とFacebookユーザーのアカウント情報を照合することで、より正確なコンバージョンの計測を実現する詳細マッチング機能によってサポートされます。詳細マッチングは、送信された個人情報を基にコンバージョンを特定し計測する機能であり、コンバージョンAPIはその情報を送る手段に過ぎません。これら二つは機能的に異なるものであり、それぞれ独立した役割を持っています。

したがって、もしコンバージョンAPIを利用していても、カスタマー情報パラメーターに基づく重要な個人情報を十分にFacebookに送信できていない場合、詳細マッチングを行うことができず、結果としてコンバージョン計測の精度は改善されません。コンバージョンAPIの有効活用には、この詳細マッチングに必要な情報の提供が不可欠であるということです。

一方、Facebook Pixelを通じた詳細マッチングが適切に設定されていれば、コンバージョンAPIを使用していなくても、一定の計測漏れを防ぐことが可能です。これは、広告の自動入札などの運用において、正確な計測データが極めて重要であることを考えると、詳細マッチングへの対応を優先すべきという筆者の提言につながります。

コンバージョンAPIは将来的に多くのCMSやASPカートに対応していく可能性が高いため、直ちに大規模な投資をして導入するかどうかは慎重に検討すべきです。対照的に、比較的少ない投資で実装可能な詳細マッチングは、コンバージョンの計測漏れを最小限に抑え、広告効果を最大化するための効果的な手段です。

さらに、詳細マッチングを先行して対応しておくことは、後にコンバージョンAPIを導入する際にも大きなメリットをもたらします。特に、Google タグマネージャーを利用して詳細マッチングを実装する場合は、コンバージョンAPIを追加する際に大きな変更を必要としないことが多いため、前もって対応しておくことに損はないでしょう。

イベントが重複する場合はどうなる?

Facebook PixelとコンバージョンAPIで送られたイベントが重複する場合は、Pixelのイベントが優先されます。

公開されているドキュメントに基づきますと、FacebookはFacebook PixelとコンバージョンAPIを組み合わせて使用し、event_id と event_name を用いた重複イベントの処理を推奨しています。このプロセスにより、Facebook PixelまたはコンバージョンAPIのいずれかから送信されたイベントが削除されることになりますが、2021年10月時点でのコンバージョンAPIの動作仕様によると、Facebook Pixelから送信されたイベントとコンバージョンAPI経由で送られたデータがほぼ同時に到着した場合(先に受信したイベントから5分以内)、Facebook Pixelによるイベントが優先されます。また、一方のイベントが受信されてから5分を超え48時間以内に受信された後続のイベントは削除されます。

この仕様により、Facebook PixelとコンバージョンAPIの併用環境下では、コンバージョンAPI経由で送信されたイベントが有効に活用されるシナリオは、以下の二つの条件を両方満たした場合に限られます。

  1. Facebook Pixelよりも先にサーバーイベントが受信された場合。
  2. サーバーイベントの受信から5分以上経過後にFacebook Pixelのイベントが受信された場合。

(※図はテスト環境で実験したときのイベントレポート)

これは、実質的にFacebook Pixelが正しく読み込まれなかった場合にコンバージョンAPIからのデータ送信が意味を持つということです。そのため、サーバーから送信されたイベントが破棄されることなく利用される可能性は非常に低く、コンバージョンAPIの役割は、不足しているFacebook Pixelデータを補完する程度に留まると言えます。

テスト環境でFacebook PixelとコンバージョンAPIの併用を試み、event_id と event_name を用いて重複処理を実行したところ、この仕様通りに動作することを確認しました。現在、イベントが重複するとどちらかが削除される仕様であるものの、Facebookは一部の広告主に対し、PixelとAPIイベントのマージ機能を提供しているとのことです。

このマージ機能が広く利用可能になれば、Facebook PixelとコンバージョンAPIからのイベントを結合させ、互いに不足しているデータを補完し合うことが可能になります。これにより、コンバージョンAPIからの送信が無駄に終わることはなくなるでしょう。

余談ですが、Facebook Pixelのイベントが優先される現象は、おそらくFacebook Pixelから得られるデータがより豊富であることに起因します。コンバージョンAPIでも全てのサーバーイベントパラメータを用いて十分なデータを送信すれば、Pixelで得られるデータの質に匹敵するはずですが、すべての広告主がこのような実装を行うわけではないため、利用可能なデータが豊富なFacebook Pixelが優先される設計になっているのでしょう。

コンバージョンAPIゲートウェイは手軽だが、導入が容易ではない

Facebookは、2021年10月20日に、コンバージョンAPIを手軽に導入できる新たな方法として、コンバージョンAPIゲートウェイの提供開始を発表しました。このゲートウェイは、Facebook Businessヘルプセンターによると、以下のように述べられています。

コンバージョンAPIゲートウェイで実現するさらなるメリット

  • 統合スピード: コンバージョンAPIの統合にかかる時間が数週間から数時間に短縮されます。
  • コスト: コンバージョンAPIゲートウェイは必要なテクニカルリソースや要件が少ないため、コスト削減につながる可能性があります。コンバージョンAPIゲートウェイの利用に伴うコストはオンラインストレージ料金のみです。
  • 技術的難易度が低い: 一定の技術的知識があれば、コンバージョンAPIは自分で設定および構成が可能であり、ITチームや開発者チームによるサポートが最小限で済みます。
  • メンテナンスコストの低減: 手動での直接統合とは異なり、コンバージョンAPIゲートウェイは新機能が利用可能になるたびに自動的にアップデートされるため、長期的なメンテナンスコストが削減されます。

コンバージョンAPIゲートウェイは、以下に当てはまるビジネスに最適なソリューションです。

  • Facebookピクセルをすでに利用している。
  • ウェブイベントの送信にコンバージョンAPIをまだ利用していない。
  • ウェブイベントの最適化にかかる費用が月額$2,000を超える。
  • Shopify、WooCommerce、BigCommerceなどのEコマースパートナーを利用していない。
  • すでにEコマースパートナーと連携してFacebookピクセルを管理していて、そのパートナーがコンバージョンAPIに対応している場合は、既存のパートナーを利用して統合するのが最も簡単な方法です。

注:料金は、リージョンおよび利用量またはピクセルトラフィックのボリュームによって異なります。

しかし、コンバージョンAPIゲートウェイ設定ガイドを詳しく見ると、AWS(Amazon Web Service)サーバー契約が必要であったり、ドメイン知識や「デプロイ」、「プロビジョニング」といった専門用語に触れる必要があることがわかります。これらのサーバーは広告主自身が契約し、AWS利用に伴う費用も広告主が負担する必要があります。

設定ガイドをさらに進めていくと、開発に関わるエンジニアリングリソースは、ほぼ不要とされていますが、サーバーサイドエンジニアリングについてのある程度の知識がなければ、導入は難しいかもしれません。またAWSやGoogle Cloud Platform(GCP)を利用している広告主は多くなく、多くの場合、導入が容易ではないと感じられることが多いです。

AWSサーバーを契約する際には、サーバーのリージョンやスペックをあらかじめ決定しておく必要があり、これらに関する知識がなければ契約過程でつまずく可能性があります。さらに、AWSのサーバー構成に応じた月額費用の見積もりを出すためのツールも用意されていますが、AWSの基本的な概念を理解していないと、見積もり作成にも困難が伴います。

確かに、設定自体は画面上での操作により簡単に行えるように思えますが、これらの設定を完了させるためには、AWSに関する知見が不可欠であり、その意味での難易度は高くなってしまいます。

コンバージョンAPIを利用する際に指定できるサーバーは、AWS(Amazon Web Services)のみ

コンバージョンAPIゲートウェイの導入を検討している方々には、重要なポイントがあります。2021年10月の情報によると、コンバージョンAPIを利用する際に指定できるサーバーは、AWS(Amazon Web Services)のみとなっています。これは、AWSと同じようなクラウドサービスを提供するGCP(Google Cloud Platform)を利用してコンバージョンAPIゲートウェイをホストすることが、現時点ではできないことを意味します。この仕様は、AWSの使用が前提条件とされていることから明らかです。

短期的に見れば、コンバージョンAPIゲートウェイを通じてコンバージョンAPIの実装を行う場合、特に問題は生じないでしょう。しかし、中長期的な視点で考えた場合、AWSの使用が将来的に制約となる可能性があります。

この懸念は、Google広告が提供するCookieレスのコンバージョン計測機能である拡張コンバージョンが、将来的に広告主のサーバーからイベントデータを送信する仕組みを一般に開放する可能性があるためです。このような仕組みを実装する場合、Google タグマネージャーのサーバーサイドコンテナを使用することになり、GCPのサーバー利用が必要となる可能性が高いです。

また、Google アナリティクスなどのGoogle系プロダクトも、将来的にGoogle タグマネージャーのサーバーサイドコンテナを利用する方向で進展しているとのことです。これにより、Google系のプロダクトではGCPを、FacebookのコンバージョンAPIゲートウェイではAWSを使用する必要がある、という状況に直面する可能性があります。

しかし、幸いなことに、FacebookのコンバージョンAPIをGoogle タグマネージャーのサーバーサイドコンテナとGCPを使って実装することが可能です。このため、GCPを利用している場合や、今後Google系プロダクトの利用を検討している場合は、GCPの使用を前提にした検討をすることも一つの選択肢です。

AWSサーバーを既に構築しており、将来的にコンバージョンAPIゲートウェイがGCPにも対応するようになった場合の移行も考えられます。ただし、その際には移行に伴うリソースの投入やスイッチングコストが発生するため、これらを考慮した上でどのプラットフォームを選択するか判断することが推奨されます。

まとめ

新しい技術やソリューションが登場した時は一歩立ち止まり、捉え直すことが重要です。コンバージョンAPIやコンバージョンAPIゲートウェイのような新技術について耳にすると、多くの方がこれらを急いで導入すべきだと感じがちです。特に、その技術の背景や仕組みを完全には理解していない状態での導入は、将来的に思わぬ障害となるリスクも秘めています。

ここで強調したいのは、短期的な視点での導入が必ずしも否定的な選択ではないということです。大規模な企業やナショナルクライアントの場合、市場における競争優位を確立するためには、迅速な導入が必須であることもあります。

それに対して、中小規模のビジネスにおいては、コンバージョンAPIの実装にかかるコスト、期待されるリターン、そしてそれを支える人的リソースとのバランスを冷静に評価することが大切です。実装を急ぐ必要が本当にあるのか、それとも他の優先事項があるのかを慎重に検討する時間を持つべきでしょう。

新しい技術やソリューションが登場し、業界内で話題となると、情報に流されがちですが、そのような時こそ、情報を鵜呑みにするのではなく、一歩立ち止まり、全体像を冷静に捉え直すことが重要です。