最近、Facebook広告をはじめとするインターネット広告の世界では、サードパーティCookieの動向に多くの注目が集まっています。これは、デジタルマーケティングに関わるすべての人々にとって重要な話題であり、その中でも「コンバージョンAPI(CAPI)」という用語について耳にされたことがある方も多いかもしれません。
しかし、この用語を聞いたことはあっても、その意味や重要性について完全には理解していない、あるいは詳しく知りたいと思いつつも、なかなか深く掘り下げることができずにいる方もいるでしょう。
このような状況を踏まえ、本記事では、コンバージョンAPI(CAPI)とは具体的に何を指すのか、そしてなぜこのような計測ツールや概念が生まれたのかという背景から、実際にどのように設定し、導入するのかという点についても、わかりやすくご説明したいと思います。
記事は少し長めですが、読み終える頃には、コンバージョンAPI(CAPI)について語る際に自信を持って、より深い理解を持つことができるようになることを目指しています。どうぞ、最後までご一読いただければ幸いです。
Cookieに依存した計測の終わりの始まり
インターネットを使う上で、私たちの閲覧行動や興味が、気がつかないうちに収集され、マーケティング目的で利用されている現状が、次第に問題視されています。特に、Cookieを介した情報収集により、個人の行動履歴や関心事が第三者によって把握され、パーソナライズされた広告の配信に利用されていることが、広く知られるようになりました。
このようなパーソナライズ広告がもたらす「同じ広告の繰り返し表示による疑念」や「プライバシーの侵害感」は、利用者からの不満の声を大きくしています。さらに、Cookieの技術がインターネット上でのセキュリティリスクを増大させることも指摘されており、クロスサイトスクリプティング(XSS)による個人情報の窃盗という深刻な問題も浮上しています。
これらの問題を背景に、Cookieの使用に厳しい制約を加え、消費者のプライバシー保護を強化する動きが、世界中で加速しています。Cookieがもたらすプライバシーへの脅威とそれに対する規制強化は、広告業界にとって大きな転換点を迎えています。
ブラウザやデバイスレベルでのCookie制限
こうした中、特にブラウザやデバイスレベルでのCookie制限は、AppleのSafariブラウザが先駆けとなり、Google Chrome、Mozilla Firefox、Microsoft Edgeなど、他の主要ブラウザも追随しています。これらのブラウザでは、サードパーティCookieの使用が制限され、広告のパーソナライズや効果測定が困難になってきています。
世界的に個人情報保護に対する規制が強化
さらに、GDPRやCCPAなどのプライバシー保護法が、Cookieの使用に関する明確なルールを設け、利用者の同意を必須とするなど、法的な観点からもプライバシー保護の取り組みが強化されています。
日本においても個人情報保護に対する規制が強化
日本においても、改正個人情報保護法の施行により、Cookieを介した情報収集と利用に関して、より厳格な規制が適用されるようになりました。これにより、企業は個人情報とCookieを結びつける場合、事前の同意を得る必要があるなど、Cookieを使用したマーケティング活動に新たな課題が生じています。
こうした動きは、広告業界におけるCookie依存の計測手法からの脱却を促し、新たなプライバシー保護の規範を確立する方向へと進んでいます。
Cookieの利用が世界中で制限
広告の成果を計測する手法として、計測タグとCookieを組み合わせた方法が依然として広く採用されています。このプロセスでは、まず計測タグが読み込まれ、次にブラウザに計測用のCookieがセットされます。その後、ユーザーがコンバージョンを達成すると、そのCookieのデータが広告媒体の計測サーバーに送信され、そのデータに基づいて媒体管理画面にコンバージョンとして記録されます。
国内では、広告プラットフォームの多くがファーストパーティCookieを活用し、ウェブブラウザ上で発生したコンバージョンを計測できる体制を整えています。しかし、GDPRやCCPAのような法律が施行された海外では、ウェブサイト訪問時にCookieの使用に関する同意をユーザーから得る必要があり、この同意がなければCookieを用いた計測が不可能となります。これは、計測データに大きな欠損をもたらし、結果として広告のROI(投資収益率)の把握や、自動入札システムの正確な動作が困難になることを意味します。
自動入札システムは、コンバージョンを正確に測定できることを前提としています。この前提が崩れると、広告の費用対効果の測定が不可能になり、誤った運用を促進する可能性さえあります。
現時点で日本では、Cookieの使用に際して事前の同意を得る必要はありませんが、海外で事業を展開する日本の企業には、Cookieの使用にあたってユーザーの同意を必要とする場合があります。これにより、Cookieを利用した計測でデータが欠損するリスクが高まっています。
規制が今後も強化されることが予想される中、日本でも将来的にはCookieを使用した計測が困難になる可能性があります。そのため、マーケティング関係者は、Cookieに依存しない新しい計測手法への移行を理解し、その導入を進めるプロジェクトマネジメントスキルがますます重要になってきています。これは、ポストCookie時代に向けたマーケティング戦略の再構築と、プライバシー保護とデータ活用のバランスを取りながら効果的な広告運用を行う能力が求められることを意味します。
新たな計測手法であるコンバージョンAPI(CAPI)
冒頭で述べた通り、デジタル広告の世界ではCookieの利用に関する制限が進んでいます。この背景の中、Facebook社は、従来のCookie依存型から一歩踏み出しています。
コンバージョンAPI(CAPI)とは、簡単に言うと、従来のウェブサイトに設置されていたFacebookのピクセルタグを使用する代わりに、広告主自身のサーバーから直接Facebookの広告サーバーへイベントデータを送信する技術です。この技術を用いることで、Cookieの制限による影響を受けずに、イベントデータの送信が可能になり、計測の正確性を維持することができます。
このように広告の計測に利用されるCookieが制限されていく流れの中、Facebook社はCookieに依存しない計測方法であるコンバージョンAPI(CAPI)という仕組みを提供しています。
さらに、コンバージョンAPI(CAPI)を使用することで、送信されたイベントデータとFacebookに保存されているユーザー情報を照合し、それをもとにどの広告がコンバージョンに繋がったのかを特定する処理を行います。このプロセスは、広告とユーザーの接触点を明確にするために、Facebook広告のクリックIDなどの情報を活用します。特に、FacebookピクセルとコンバージョンAPI(CAPI)を組み合わせて使用する場合、ピクセルが収集する情報を基にイベントを送信できますが、コンバージョンAPI(CAPI)のみを使用してイベントを送信する際には、Facebook広告のクリックIDを含む、ピクセルによって自動的に収集される情報をFacebookのサーバーへ送れるよう適切に設定する必要があります。
このように、コンバージョンAPI(CAPI)は、Cookieの制限に直面している現在のデジタル広告業界において、計測の精度を損なうことなく広告の効果を正確に把握するための重要な役割を担っています。広告主は、この新たな技術を活用することで、プライバシーに配慮しつつも、広告キャンペーンの成果を最大化することが可能になります。
FacebookのコンバージョンAPI(CAPI)を導入できない場合は何が起きるのか?
コンバージョンAPI(CAPI)の導入は、技術的な開発や実装を要することがあり、すべてのケースでの導入が現実的でない場合も考えられます。万が一、コンバージョンAPI(CAPI)の利用が難しい状況になったとしても、心配はいりません。この記事の後半部分で紹介する「手動詳細マッチング」という代替手法を用いれば、計測の精度を維持することが可能です。手動詳細マッチングは、すでに活用しているFacebookピクセルのカスタマイズを行うことで実施でき、コンバージョンAPI(CAPI)の導入に比べて比較的容易に取り組むことができます。
しかし、コンバージョンAPI(CAPI)の導入を見送り、さらに手動詳細マッチングも採用しない選択をした場合、Cookieの使用が制限される状況が進行するにつれて、コンバージョン計測の漏れやデータの欠損が増加するリスクが高まります。これは、計測されないコンバージョンが増えることで、広告キャンペーンの見かけ上の効果が低下するだけでなく、広告配信の最適化にも悪影響を及ぼします。広告アカウントで確認されるコンバージョンのシグナルが弱まると、自動入札機能が目標達成や最適化を行うために必要なデータが不足し、結果として広告の費用対効果のさらなる悪化に繋がる可能性があります。
このような状況を避けるためには、コンバージョンAPI(CAPI)や手動詳細マッチングといった新しい技術や方法を積極的に採用し、進化するデジタルマーケティングの環境に適応することが重要です。これらの手法を活用することで、プライバシーに配慮しつつ、広告の効果測定を正確に行い、キャンペーンの最適化を図ることができるのです。
コンバージョンAPI(CAPI)を利用するにあたり、実装のプロセスはいくつかの重要なステップに分けられます。
まず、初めの一歩として、どの情報をコンバージョンAPI経由でFacebookのサーバーに送信する必要があるのかをしっかりと理解し、決定することが求められます。
この送信するべき情報、つまりパラメータは主に以下の3つから構成されます。
イベント名(event_name):これは発生したアクションを識別するために用いられるもので、Facebookが定義している標準のイベント名や、特定のアクションを表すために自ら定義したカスタムイベント名が該当します。
イベント発生時刻(event_time):イベントが実際に発生した正確な日時です。この情報により、イベントがいつ起きたのかを特定できます。
ユーザーデータ(user_data):顧客に関連する情報であり、送信されるデータの中で最も重要な部分の一つです。ここに含まれる情報は、顧客を特定するために使用され、下記の表に記載されているように、一つ以上の項目が必要となります。利用可能なデータ項目が多ければ多いほど、広告のターゲティング精度が向上します。
これらのパラメータを慎重に選択し、準備することは、コンバージョンAPIを成功裏に導入し、活用するための基礎を築くことになります。適切な情報を送信することで、Facebookの広告システムはより正確にユーザーの行動を追跡し、その結果として生じるコンバージョンを効果的に計測することが可能となります。これにより、マーケティング活動のROIを最大化し、広告戦略の精度を高めることができるのです。
手順.1 どのような情報をコンバージョンAPI(CAPI)で送信するかを検討する
コンバージョンAPIにてFacebookのサーバーに送信が最低限必要になる情報(パラメーター)は下記3つになります。
- event_name:標準イベントまたはカスタムイベントの名前
- event_time:上記のイベントが発生した日時
- user_data:顧客に関する情報(下記の表のうち1つ以上が必要、利用できる項目が多いほどGood)
Key Type | Key Name | 事前のハッシュ化 |
---|---|---|
em | 必要 | |
Phone | ph | 必要 |
Gender | ge | 必要 |
Date of Birth | db | 必要 |
Last Name | ln | 必要 |
First Name | fn | 必要 |
City | ct | 必要 |
State | st | 必要 |
Zip | zp | 必要 |
Country | country | 必要 |
External ID | external_id | 推奨 |
Client IP address | client_ip_address | 不要 |
Client user agent | client_user_agent | 不要 |
Click ID | fbc | 不要 |
Browser ID | fbp | 不要 |
Subscription ID | subscription_id | 不要 |
Lead ID | lead_id | 不要 |
FB Login ID | fb_login_id | 不要 |
※上記以外にも様々なパラメータが用意されているので、詳細は下記を参照ください
このうち、必須のパラメーターになっている event_name ではFacebook広告上で計測したい標準イベントやカスタムイベントを指定します。
同じく必須パラメーターとなっている user_data はFacebookアカウントとのマッチングを図るためのパラメータなので、user_data で送信できる情報が多ければ多いほどコンバージョン計測の精度も上がります。可能な限り情報を送信できるようにしましょう。
手順.2 送信するイベントのうちどのイベントをコンバージョンAPI(CAPI)で送信するかを検討する
コンバージョンAPI(CAPI)を適切に導入するためには、計画的にいくつかの段階を経る必要があります。最初の段階として、どのイベントをコンバージョンAPIを通じてFacebookに送信するかを決定することが重要です。この選択は、実装の範囲や構造設計に直接影響を与え、大きく以下の4つのカテゴリに分けられます。
全イベントをFacebookピクセルとコンバージョンAPIで送信する方法:
この方法では、すべてのイベントを両方の手段を用いて送信します。ただし、FacebookピクセルとコンバージョンAPIから同じイベントが送信される可能性があるため、イベントID(event_id)を利用して重複したコンバージョンの記録を避ける工夫が必要です。イベントIDは広告主が自由に設定できる文字列であり、その設計や付与ルールを事前に決めておく必要があるため、実装の難易度は比較的高いと言えます。
重要なイベントのみをFacebookピクセルとコンバージョンAPIで送信する方法:
購入(Purchase)や登録完了(CompleteRegistration)など、特に重要と判断されるイベントのみをコンバージョンAPIで送信する手法です。こちらもイベントの重複に注意が必要ですが、コンバージョンページには通常、注文番号や会員番号などのユニークな識別子が存在するため、第1の方法に比べて実装はやや容易です。
重要なイベントのみをコンバージョンAPIで、それ以外のイベントをFacebookピクセルで送信する方法:
イベントの重複を避けるため、または特定のページでのみコンバージョンAPIを用いる場合に適した手法です。Facebookピクセルを使用していないページでは、通常ピクセルが自動で収集するイベントソースURL(event_source_url)や、Facebook広告のクリックID(fbc)などの追加情報を送信する必要があります。これらの追加情報の送信を可能にするためには、適切なシステムの構築が必要となります。
全イベントをコンバージョンAPIでのみ送信する方法
このアプローチでは、Cookieに依存する計測から完全に独立し、すべてのイベントをコンバージョンAPIを通じて送信します。これには、通常Facebookピクセルが自動で収集するイベントソースURLや、計測の精度を高めるためのユーザーデータの送信が含まれます。Facebookは、実装を段階的に進め、最初は前述の1~3の方法を試し、動作を確認した後にこの方法に進むことを推奨しています。
これらの選択肢を検討する際には、実装の複雑さ、必要とされるリソース、および目的とする計測の精度を考慮に入れることが重要です。それぞれの手法が持つ利点と制限を理解出来ます。
手順.3 どのように実装するかを検討する
コンバージョンAPI(CAPI)の実装における情報やイベントの送信内容、そして具体的な実装構造が明確になった後は、システムとしてどのようにこれを実現するかを考慮する段階に入ります。この実装には、開発の必要性がない簡単な方法から、特定の技術的手法を要するものまで、幾つかの異なるアプローチが存在します。主な実装方法は以下の4つに大別されます。
パートナープラットフォームを活用する
Facebookと直接統合可能なパートナープラットフォームを利用することで、複雑な開発作業を行うことなく、簡単にコンバージョンAPIを導入できます。
- 統合できるパートナー(プラットフォーム)を利用する
- 自社で直接実装する
- Google タグマネージャーのサーバー用コンテナを利用する
- サードパーティの計測ツールを導入する
次からそれぞれの方法について簡単に説明します。
これらの実装方法を選択する際には、企業の技術リソース、予算、そして目指すマーケティング戦略の具体性を総合的に考慮することが重要です。
ポイント1.統合できるパートナー(プラットフォーム)を利用する
Facebookと互換性のあるパートナープラットフォームとの連携を通じて、複雑なプログラミング作業を行わずにコンバージョンAPI(CAPI)を導入できる方法が存在します。これにより、技術的な難易度を大幅に下げ、簡便に実装を行うことが可能になります。例えば、以下のようなカテゴリとプラットフォームがこの連携のオプションとして利用可能です。
Facebookと統合できるパートナー(下記)と連携することで、複雑なコードを書くことなく導入することが可能です。
下記は2021年9月1日現在のものです。
カテゴリ | プラットフォーム名 |
---|---|
Eコマース | Magento |
Eコマース | Shopify (オンライン) |
Eコマース | WooCommerce |
ウェブサイトプラットフォーム | Cafe24 |
ウェブサイトプラットフォーム | Makeshop |
ウェブサイトプラットフォーム | Segment |
ウェブサイトプラットフォーム | WordPress |
カスタマーデータプラットフォーム | Tealium |
データ接続プラットフォーム | Zapier |
データ接続プラットフォーム | Conversions API Gateway |
タグ管理 | Googleタグマネージャー(サーバーサイド) |
ポイント2.自社で直接実装する
もし、これらの統合可能なパートナーを使用しない場合、広告主は自身でコンバージョンAPIを使用してイベントデータをFacebookの広告サーバーへ送信するシステムを開発する必要が出てきます。これには、社内のIT部門や外部の開発パートナーと連携し、専用のシステムを構築する作業が伴います。実装の具体的な方法は、使用しているクライアントサーバーやシステムによって異なります。
ポイント3.Google タグマネージャーのサーバー用コンテナを利用して実装する
また、技術リソースが限られている場合には、Googleタグマネージャーのサーバー用コンテナを活用することも一つの解決策です。この方法では、Google アナリティクス 4(GA4)と組み合わせて、特別な開発作業なしに、ノーコードでコンバージョンAPIの実装が可能です。ただし、Google Cloud Platformを利用するため、使用量に応じた料金が発生する点には注意が必要です。
ポイント4. サードパーティの計測ツールを導入する
サードパーティ製の計測ツールの活用は、FacebookのコンバージョンAPI(CAPI)との互換性を持つ、多種多様な広告効果測定ツールやデータハブサービスが市場に提供されていることから、実装の選択肢として考慮する価値があります。これらのツールは、SaaSベンダーによって開発され、コンバージョンAPIに直接対応しており、広告キャンペーンの成果を正確に追跡・分析する能力を提供します。
導入にあたっては月額料金が発生しますが、このコストはツールの利便性と比較して、多くの場合、投資価値が高いと考えられます。サードパーティ製のツールを使用する主な利点は、技術的な複雑さや開発に関わる時間とリソースの節約にあります。また、これらのツールは、しばしば直感的なインターフェースや豊富な機能を備えており、広告効果の分析をより深く、かつ容易に行うことが可能です。
このように、サードパーティ製の計測ツールの導入は、特に開発リソースに制限がある企業や、迅速にコンバージョンAPIの利益を享受したい企業にとって、効率的な解決策となり得ます。この選択肢を検討することで、Facebookの広告キャンペーンの成果を最大化し、デジタルマーケティング戦略の精度を高めることが期待できます。
市場にはコンバージョンAPIに対応した広告効果測定ツールやデータハブサービスを提供するSaaSベンダーも存在します。これらのサービスを利用することで、月額の定額料金で簡単にコンバージョンAPIの導入を行うことができ、技術的なハードルを一層低減させることが可能です。このようなサードパーティの計測ツールの導入は、コンバージョンAPIの利用を検討している企業にとって有効な選択肢の一つです。
手順.4 ファーストパーティデータの利用について、法務部と調整を行う
コンバージョンAPI(CAPI)の導入においては、技術的な準備だけではなく、顧客情報などのファーストパーティデータをFacebookに送信することになるため、企業の法務部門との密接な協力が不可欠です。このようなファーストパーティデータの扱いに関しては、データのハッシュ化(暗号化)が必要になるなど、特定の要件がFacebookから提示されています。そのため、Facebookとのデータ共有範囲について企業ポリシーを明確に定め、必要な承認を事前に得ることが重要です。
さらに、技術的な実装が完了し、法的な承認も得た後には、実際のデータ送信テストを実施します。このテストを通じて、送信したデータがFacebookのイベントマネージャーで適切に受信されているかを確認することで、本番環境への移行の準備を整えます。
手順.5 コンバージョンAPI(CAPI)を使ったデータ送信テストを行う
一方で、コンバージョンAPI(CAPI)の実装が困難な場合、その代替手段として手動詳細マッチングの利用が考えられます。この方法を採用することで、アプリとウェブブラウザ間でCookie情報が分断される環境下でも、精度の高い計測が可能になります。手動詳細マッチングでは、コンバージョンページに設置されたFacebookピクセルに追加コードを挿入することで、ファーストパーティデータをFacebookの広告サーバーへ送信できるようになります。
コンバージョンAPI(CAPI)の実装が難しい場合は手動詳細マッチングの利用を検討する
このプロセスを通じて、FacebookやInstagram上での広告クリックからウェブブラウザでのコンバージョンに至るまで、一貫した計測を行うことができるようになります。手動詳細マッチングによってFacebookに送信できる情報の範囲も広く、利用可能なファーストパーティデータの種類が多いほど、計測の精度は向上します。
コンバージョンAPI(CAPI)の実装に際しては、技術的な準備だけでなく、データプライバシーの観点から法務部門との連携、さらには代替手段の検討も含め、綿密な計画と準備が求められます。これらのステップを踏むことで、企業はFacebookの先進的な計測ツールを利用しつつ、ユーザープライバシーの保護という重要な責務を遵守することができます。
この手動詳細マッチングでFacebook社に送信できる情報は下記を参考にしてみてください。こちらもコンバージョンAPI(CAPI)と同様、利用できるファーストパーティデータの種類が多ければ多いほど精度が高くなります。
ユーザーデータ | パラメーター | 書式 | 例 |
---|---|---|---|
メール | em | jsmith@example.com | |
名 | fn | 小文字 | john |
姓 | ln | 小文字 | smith |
電話番号 | ph | 国番号と市外局番のみを含む数字 | 16505554444 |
外部ID | external_id | 広告主からの一意のID (ロイヤルティメンバーID、ユーザーID、外部Cookie IDなど)。 | a@example.com |
性別 | ge | 小文字1文字のfまたはm、不明の場合は空白 | f |
生年月日 | db | 数字のみで表した生年月日 | 1991年5月26日の場合は19910526。 |
都市 | ct | 小文字、スペースは削除 | menlopark |
州 | st | 小文字2文字の州コード | ca |
郵便番号 | zp | 文字列 | 94025 |
国 | country | 小文字2文字の国コード | us |
コンバージョンAPI(CAPI)、手動詳細マッチングの実装方法ごとの注意点などのまとめ
実装方法など | 手動詳細マッチング | 独自に実装する | GTMサーバーサイドタグを利用 | パートナー統合 | Shopifyなどのプラグインを利用 |
実装の工数 | 小~中 | 大 | 中 | 小 | 小 |
エンジニアの工数 | 不要※メールアドレスなどがサイトから取得できる前提 | 大 | 中 | 不要 | 不要 |
費用 | 不要 | プログラムの開発や保守、別途サーバーを用意するのであればそちらのコストなど | Google タグマネージャーのサーバー用コンテナでは Google Cloud Platform を利用するため、サーバーの規模に応じてコストがかかる | 統合に利用するパートナーによる | 不要 |
その他 | 既存のピクセルへ追加実装をするだけなので実装が容易 ただし、メールアドレスがタグマネージャーなどで取得できる前提のため、取得できない場合はすべてのページで取得できるようにHTML内にメールアドレスを取得できるように定義する必要がある | 先方のWEBシステムへ独自にCAPIへアクセスするための機能追加をする必要があるため、期間、費用がかなり掛かることが見込まれる | Google Cloud Platform、DNSの設定がスムーズにできれば、実際の導入作業自体は1週間程度 | 統合パートナーを利用している広告主に限る | Shopifyを利用している広告主に限る(ECサイトのみ) |
ITP対策 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
広告ブロッカー、CVタグ未発火時にページを閉じられるなど対応 | ☓ | ○ | ☓※CAPIを利用しているが、ブラウザで発火するタグがベースとなっているため、影響を受けると考えられる | △※統合方法によっては影響を受ける可能性がある | ○ |
導入のしやすさ | ○ | ☓ | ○ | ○ ~ ◎※統合に利用するパートナーによる | ◎※ただし、Shopifyユーザーに限る |
この記事では、コンバージョンAPI(CAPI)と手動詳細マッチングという、Cookieを用いない別のアプローチによるコンバージョン測定方法の導入プロセスに焦点を当てて解説してきました。これらのテクノロジーは、デジタルマーケティングの分野において、プライバシーに配慮しながらも正確なデータ測定を可能にするための重要な手段となっています。
企業がどのようにこれらの技術を導入するかは、利用している技術インフラや既に統合可能なパートナーが存在するかどうかといった、それぞれの状況に大きく左右されます。そのため、現在のシステム環境や利用可能なリソースを慎重に評価した上で、最適な導入方法を選択することが推奨されます。
コンバージョンAPI(CAPI)の導入には、Facebookと直接統合できるパートナープラットフォームを利用する方法、自社で直接システムを構築する方法、Googleタグマネージャーを通じた実装、あるいはサードパーティ製の計測ツールを活用する方法などがあります。一方、手動詳細マッチングは、よりシンプルな実装が可能であり、特にCookie情報が分断されがちなアプリとウェブブラウザ間のコンバージョン測定において、精度の高いデータ収集を支援します。
これらの技術を導入する際は、企業のデータポリシーに準拠し、ユーザープライバシーの保護を最優先に考慮する必要があります。また、法務部門との連携を密に取りながら、適切なデータ処理手順を確立することも重要です。導入前には必ずデータ送信テストを行い、実際にFacebookのイベントマネージャーでデータが正確に受信されていることを確認することで、スムーズな本番運用へと移行できるようにします。
これらのCookieに依存しないコンバージョン測定方法を採用することで、変化するデジタル広告の環境に適応しつつ、正確で信頼性の高いデータに基づいたマーケティング戦略の策定が可能となります。現在のシステム環境や具体的なビジネスニーズに最も合致する導入パターンを見極め、効率的かつ効果的なデータ測定基盤の構築を目指しましょう。
まとめ
現在、多くの広告プラットフォームが依然としてCookieに基づく成果測定に依存していますが、ファーストパーティデータをAPIを介して広告プラットフォームと共有するアプローチは、将来的に主流になる可能性が高いと考えられます。特に、業界大手の動きを見ると、Google広告がFacebook広告の手動詳細マッチングに類似した方法である拡張コンバージョンや、コンバージョンAPI(CAPI)に相当する機能としてファーストパーティデータをAPI経由で送信する拡張コンバージョンAPIのベータ版をリリースしていることからも、この傾向は明らかです。
Google広告の拡張コンバージョンAPIは現在、限られた広告主にのみ提供されていますが、将来的にはより広範な広告主が利用できるようになると予想されます。これにより、Facebook広告のコンバージョンAPIと同様に、Google広告を使用する際にも計測の精度を大幅に向上させることが可能になりそうです。
これからのデジタル広告の世界では、急速に進化するテクノロジーをいかに活用し、運用するかが重要な要素となってきます。コンバージョンAPIや手動詳細マッチングのような先進的な技術の導入は、初期のコストだけを考えるのではなく、計測漏れによる広告効果の低下や、それに伴う広告費用対効果の悪化、さらには広告投資を停止することによって生じる機会損失など、長期的な視点でのデメリットも含めて慎重に検討する必要があります。
テクノロジーの進歩に適応し、変化に柔軟に対応することで、デジタルマーケティング戦略の効率性と有効性を最大限に高めることができるでしょう。ファーストパーティデータの活用とプライバシーへの配慮を両立させながら、今後のデジタル広告の動向に積極的に対応していくことが、成功への鍵を握っています。