ABMの全貌|基本から導入の7つのステップまで徹底解説

監修者

佐藤 祐介
佐藤 祐介

株式会社LIFRELL代表取締役。大手代理店、株式会社オプト、電通デジタルの2社でアカウントプランナーを経験。その後、株式会社すららネットでインハウスマーケターとして事業の立ち上げからマザーズ上場水準まで事業を伸長させる。マーケティング戦略の立案からSEO/WEB広告/SNS/アフィリエイト等の施策で売上にコミット。

専門家

深瀬 正貴
深瀬 正貴

Yahoo株式会社 法人マーケソリューション出身。 鎌倉の海のそばでオフィスFHを運営。 リスティングやSEOをはじめとしたデジタルマーケティングで100社以上の売り上げ課題を解決。
最近の趣味はブームに乗っかったように見えてしまう「焚き火ごはん」。

目次

BtoBの世界では、2000年代初めに誕生した「ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)」が再び脚光を浴びています。

 ABMとは、特定のアカウント(企業)を明確にターゲットとし、そのアカウントに特化した戦略を展開するマーケティングの手法です。

これにより、ターゲットの精度を高め、条件をクリアした企業だけにアプローチすることが可能となり、売上向上に効果的に寄与する顧客に焦点を当て、ROI(投資対効果)を向上させることができます。

 ただし、ABMが全てのBtoB企業に適しているわけではないのが現実です。

 この記事では、ABMの基本的な理念から、その利点と最適な対象企業について、具体例や事例も交えてわかりやすく解説します。

ABMの導入ステップも詳しく説明しますので、ぜひ参照してみてください。

ABMの本質:具体例を交えた従来のマーケティングとの差別化

ABMは「アカウント・ベースド・マーケティング(Account Based Marketing)」の略であり、BtoBマーケティングの手法の一つです。 簡単に言うと、「企業に利益をもたらす正確なターゲットを選定し、そのターゲットに対して集中的にマーケティング活動を展開する」ことです。

ABMでは、「大規模な企業」という曖昧なターゲティングではなく、具体的に「トヨタ」や「ホンダ」といったアカウント(企業)レベルでのターゲティングを実行します。

これを基準に、一定の売上規模を有する中堅から大企業をターゲットとし、計画的にアプローチしていくのがABMの戦略です。 

ABMとリード・ベースド・マーケティング:それぞれの特徴と差異

特徴ABM (Account Based Marketing)リードベースドマーケティング (Lead-Based Marketing)
主要な焦点特定のターゲットアカウントに焦点個々のリード(見込み客)に焦点
ターゲット限られた数の大規模な企業や顧客多数の個別のリード
パーソナライズ強化されたパーソナライズ一般的なメッセージとターゲティング
ストラテジー個別の戦略を設定し、カスタマイズ幅広いオーディエンスへのアプローチを使用
コミュニケーション1対1または1対少数のコミュニケーション多くのリードとのマスメディアコミュニケーション
費用高い費用がかかる場合がある一般的に低い費用
セールスサイクル長期的なセールスサイクル短期的なセールスサイクル
成果評価ROIが高いことが期待される成果が測定されるが、ターゲット数が多いためROIは低い
大手企業や重要な顧客向け小規模および中規模企業向け

ABMとリード・ベースド・マーケティングの主な違いは、対象が「アカウント(企業)」であるのか、「リード(個人)」であるのか、という部分です。

ABMでは、どのアカウント(企業)が最も利益に貢献するかを分析し、「アカウントの選定」からスタートします。そして、既存の関係を深化させ、最終的には成約につなげる戦略を描きます。

具体的なターゲットを設定することで、予算とリソースを効果的に集中させ、質重視のアプローチを可能とします。

一方、「リード・ベースド・マーケティング」は、幅広いリードの獲得から始め、様々なコンテンツを通じて顧客の関心を引き上げ、最終的には成約に導く作戦を立てます。リードが多様であるため、予算とリソースは広く分散される傾向がありますが、思いもよらないターゲットからもビジネスチャンスを見出すことができるメリットがあります。 

ABMとデマンドジェネレーションの比較

BtoBマーケティング戦略の中で代表とされるデマンドジェネレーションの存在があります。

ABMも、このデマンドジェネレーションと並び評される場合が多く見られます。

デマンドジェネレーションは、「①見込み顧客の獲得(リードジェネレーション)」「②見込み顧客の育成(リードナーチャリング)」「③見込み顧客の絞り込み(リードクオリフィケーション)」の3段階のマーケティングプロセスを指します。

マーケティングチームが中心となりリードを生成し、高い受注の可能性を持つリード(ホットリード)を営業チームに順次渡します。 

ABMとの核心的な違いは、特定のアカウントに焦点を当てるのではなく、選ばれたセグメント(市場・業界・抱える課題・地域等)に対するアプローチの展開である点にあります。 ただし、ABMとデマンドジェネレーションは、一概に対立するわけではなく、ABMを展開しながらデマンドジェネレーションの顧客管理や育成の手法を取り入れることも一般的です。

ABMの人気が高まった2つの要因

1.テクノロジーの発展

この記事の序盤で触れた通り、特定のアカウントに対して集中的なアプローチを行う「ABM」の戦略は、決して新たな発想ではなく、むしろ歴史があるものです。 

しかし、価値あるアカウントの特定と、それらに対するOne to Oneのコミュニケーション実施は大きな労力を必要とし、全力でABMを採用する企業は多くはありませんでした。

ですが、最近ではマーケティング・オートメーション(MA)や顧客管理システム(CRM)などのテクノロジーの進化により、顧客の行動分析やリードごとのコンテンツのカスタマイズが効率よく行えるようになりました。 

これらのツールの導入が広がったことで、企業がABMの取り組みに際する障壁が低くなったと言えます。

2.コロナ危機による営業の変革 

ABMプラットフォームの提供元であるTerminus社が2020年に行った調査によれば、コロナの自宅待機の影響で「ABMの戦略がどのように変わっているか?」との問いに、約72%の企業が「重要性が増している」と答えました。 

この現象の背後には、新型コロナウイルスの波及によってオフラインでの新規顧客対応や展示会が以前の方法で実施できず、新規顧客の獲得が一段と困難になった事情があるとされます。 

営業の現場はオフラインからオンラインへとシフトし、MAやCRMのデータの活用がどれだけ効果的に行えるか、また、既存の顧客との関係の深化、つまりLTV(顧客生涯価値)の向上が重視されるようになっています。

顧客獲得のプロセスが複雑化しているこの時代に、営業の直感や経験だけでなく、明確なデータに基づき、戦略的に重要な顧客を特定し、各アカウントに適切なメッセージを送るABMのアプローチが再び脚光を浴びているのです。

ABM実施のメリット

売上向上のための顧客フォーカスが可能

ABMの戦略では、自社の売上げを拡大する重要なアカウント(企業)を明確に設定し、それに対するマーケティング活動を展開します。

これにより、他のマーケティング方法に比べて、営業およびマーケティングのROIを効率的に向上させることが可能です。

カスタマイズされた施策の実行が容易 

限定されたターゲットに焦点を当てることで、一つのアカウントに対するリソースと予算の配分が増加します。

これにより、ターゲットごとの深い理解が可能となり、顧客に完全に合致したOne to Oneの施策を実施することができます。

加えて、大衆向けに送信されるメッセージよりも、自社専用のメッセージが効果的であることが多く、深い顧客理解をもとにした施策は、高いコンバージョン率を実現できる可能性が高いです。

マーケティングと営業間の協働が効果的に行える

通常のマーケティングでは、リード生成はマーケティング部門が主導し、その後は営業部門が引き継ぎます。このため、各部門の目標が異なり、活動に一貫性がないことがよくあります。

例えば、マーケティングは「リード数を増やす」ことを目指し、一方で営業は「受注を増やす」ことを重視することがあります。

しかし、ABMの導入により、顧客のニーズや現状が明確になり、マーケティングから営業まで組織全体で提供する価値が一貫しています。これにより、「この顧客を獲得するために何が必要か」という視点から、部門間の連携が円滑に進行します。

ABM導入の際、時間を要する点に留意が必要

ABMを真剣に導入しようと計画しても、実際に効果的な運用が始まるまでには時間がかかることを理解しておく必要があります。

 ABMは、単なる一部門のプロジェクトではなく、組織全体での取り組みとなります。 

特に営業部門では、これまで良い結果をもたらしていた「熱い顧客」を放置するような判断が求められる場合もあります。

個々の営業担当者は、「成約が見込めるセグメントにアクセスできなくなる」と感じ、ABMの導入方針に従うことに抵抗を感じることもあるでしょう。 

さらに、営業とマーケティングの関係だけでなく、商品やサービスに応じて異なる部門や拠点が存在する場合、それらを超えた連携が不可欠となります。

 ABMの導入は短期間での実現を望むものではなく、全社やグループ会社にABM導入の目的と戦略を明確に伝え、その上での展開が求められます。

ABMは全企業において一概に効果を発揮するわけではない

ABMのメリットは、特定のアカウントにリソースを集中させることで売上を最大化できることです。しかし、ABMは特定の条件を満たす企業に向いており、以下のような弱点も考慮する必要があります。

  1. ターゲットの数が多い商材には向かない:ABMは対象アカウントが明確でなければ効果的ではありません。大量のターゲットを持つ場合、ABMの実践は難しいことがあります。特に中小企業やベンチャー企業など、ターゲットが多い場合は他のマーケティング戦略を検討するべきです。
  2. 企業規模の制約:ABMは主に中〜大規模な企業を対象とした商材に適しています。エンタープライズ企業向けの製品やサービスを提供する場合に効果を発揮します。
  3. 顧客データの有無:ABMを実施する際、ターゲットアカウントのリスト作成が必要です。既存の顧客データが蓄積されている場合、ABMの実践が容易になります。CRMを活用して高売上を持つ顧客を特定し、アプローチを最適化できます。

ABM導入の手順!具体的な施策の展開方法を詳解

STEP1:事業の目標を基に、ABM導入の必要性を評価

明らかに、全ての企業がABMを導入する必要があるわけではないのです。

ABMを積極的に取り入れるべき企業は、先程挙げたように「対象が明確なターゲット」「高価格の商材の取り扱い」等、特別な条件が設定されています。 

「ABM」という最近の話題のキーワードですが、実際に自社にとって重要な戦略かどうかを、事業の目標と比較検討しながら判断を下すことが大切です。

STEP2:ABM専門のチームを組織

ABMの実施に当たって、デマンドセンターの役割(リードの獲得・育成・選別の一連のプロセスを調整する役割)を担うチームの存在は不可欠です。

 例として、労務管理システムを提供する企業を考えてみましょう。

このシステムをターゲット企業に導入する際、人事担当者がアプローチの対象であれば、給与計算や人事評価機能の利便性が導入の決め手になる可能性があります。

一方、経営層が対象であれば、タレントマネジメントの能力や企業の生産性向上への貢献が重要視されるかもしれません。 

このように、同じ商品を提案する場面でも、対象となる相手の役職や部門によって、訴求のポイントやメッセージが変わってくるのです。

したがって、ターゲットアカウントに対して「誰に」「どのようなメッセージを」「いつ送るか」を、組織内で精緻にコントロールすることが求められます。 

部門ごとに独立した施策を実施するのではなく、マーケティング、営業、インサイドセールス等が連携し、デマンドセンターの役割として、アカウントに対する適切なアプローチができるように調整するチームが不可欠です。

STEP3:ターゲットとなるアカウントリストを作成

この段階では、ターゲットとすべきアカウントのリストを作成します。これには、具体的な企業名(例: トヨタ、ホンダなど)を含めます。

もし既に多くのリード情報を持っている場合、それらのリードに優先順位をつけ、アプローチを進めます。しかし、リード情報がまだ不足している場合、ホワイトリストをベースに、適切な企業をリサーチし始めることになります。

このリストの構築において重要なのは、ABM戦略の中核である「顧客データを分析し、自社にとって価値のあるアカウントを選定する」プロセスです。価値あるアカウントとは、売上を最大化できる可能性の高い顧客です。

リストを作成する際に考慮すべき要素には以下があります:

  1. 売上規模
  2. アップセルやクロスセルの機会
  3. リピートの可能性
  4. 取引の成功確率

CRMツールを活用し、過去の取引から得られた顧客データを詳細に分析します。これにより、ターゲット企業の属性(例: 売上規模、業種、業界、社員数、所在地など)を明確に把握し、リストを整理します。

STEP4:意思決定者やキーパーソンの特定

次に、リストに含まれるアカウントの中で、決定権者や重要な担当者を特定します。

大規模な企業では、通常、決定権者が複数人存在します。これらの人々のポジションや役割を理解することが非常に重要です。

決定権者やキーパーソンとの接点がない場合、新たにコンタクトを取る方法を考える必要があります。展示会での名刺交換やコールドコールなどのダイレクトマーケティング手法が一般的ですが、Facebook広告を使用して、特定の役職や業界を対象にした広告展開も有効な手段となります。

さらに、SFA(Sales Force Automation)ツールを利用して、決定権者やキーパーソン以外にも、予算、ニーズ、導入タイミングなどのBANT情報(予算、権限、必要性、タイミング)を収集し、分析する必要があります。

STEP5:配信するコンテンツやメッセージを設計

ターゲットが明確になったら、どのようなメッセージを伝えるかを検討します。 ABMではターゲットが特定のアカウント(企業)に絞られているため、その企業のキーパーソンが関心を持つであろうコンテンツを設計するために、仮説を立てます。

営業チームと連携し、その企業内の既存顧客の購買プロセスや、取引が成立するまでの障壁などを検討し、解決策を導く有力なメッセージを策定しましょう。

特に「キーパーソン」を中心に、その人に価値のある情報をコンテンツとして提供し、定期的に更新しながらその行動を分析することで、パーソナライズされたコンテンツを生成することが可能です。

STEP6:チャネルと施策の選定

キーパーソンや意思決定者が日常的に利用しているメディアを考慮し、コンタクトするチャネルを選びます。

メールや電話、Web広告だけでなく、ABMでは特定のアカウントをターゲットにしているため、「トヨタに対するオフラインでの手紙提案」のようなアクションも検討できます。

さらに、ターゲットが利用しているチャネルを調査しましょう。

例えば、ターゲットが「トヨタ」である場合、自動車業界専門の雑誌に記事を提供したり、多くの自動車関連企業が参加する団体でセミナーを提案することも有効です。

また、キーパーソンが頻繁にタクシーを利用する場合、タクシー広告も検討する価値があります。

STEP7:施策の実行と成果の確認

前段階で選択したチャネルや施策を実行し、その成果を評価します。

成果の評価では、ターゲットの関与度がどれだけ向上しているかをしっかりと分析しましょう。

以下の要点が評価の参考になります。

  • キーパーソンや意思決定者とのコンタクトの結果
  • 商談回数の増加
  • 既存の顧客のLTV(生涯価値)の向上
  • 狙っていたアカウントからの新規顧客獲得

エンゲージメントは、後で説明するMAツール(マーケティングオートメーションツール)を使用して計測できます。

ABM実施の際の推奨ツール

MAツール(マーケティング・オートメーション)

MAツールとは、ビジネスのマーケティング活動を効果的にするための、手動の大部分を自動処理し、効果を最大化する仕組みのことです。

多彩な機能を持ち合わせており、多くの顧客データの蓄積や、Web活動の追跡やスコアリング(個々の見込み顧客が持つ、自社への価値を予測し、その価値に準じて点数化すること)も行えます。

このスコアリングを通じて、ターゲットの関与度が現在どの程度かを把握することができます。

CRM/SFAツール

CRMは、顧客データやコミュニケーションを一箇所で整理・管理するシステムです。

顧客の購買頻度や価格、商品などを調査することで、利益をもたらす優れた顧客(ターゲット)を特定することが可能です。 

「STEP3:アカウントのリスト化」での使用が理想的です。

SFAは、営業活動の情報、例えば過去の商談の履歴や進行状況などを管理し、営業の効果を最大化するためのツールです。

過去の商談内容や理由などの情報をまとめることで、ABMでのキーパーソンや意思決定者の特定や、接触戦略の策定に役立てることができます。 

「STEP4:意思決定者や主要人物の特定」で利用すると効果的です。

ABM専用ツール

ABMツールは、ABMの具体的な取り組みに特化した設計を持つツールであり、企業全体のデータ管理が可能で、ターゲットアカウントやキーパーソンの選定、エンゲージメントの計測機能も備えています。

まとめ 

ABMは、企業の顧客データを適切に監視・解析し、「どの企業が我々に収益をもたらしているのか」を明確化するところから始めます。

データの管理と解析を行うためには、社内の散らばった顧客情報を一括管理し、体制を可視化する仕組みが必要不可欠です。 

ターゲットとして設定したアカウントが明確になったら、各企業の抱える課題に深く取り組む必要があります。

課題解決への意志を形にし、選定したチャネルを通じて訴求し、ターゲットとのエンゲージメントを深めていくことが、ABMの成功へとつながる鍵となります。

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