自社の売上を伸ばすためには、セールスの効率性も重要です。主な例として、クロスセルやアップセルが挙げられます。実際に双方のセールス手法を取り入れ、ビジネスで成功した事例はいくつもあります。
ここでは、主にクロスセルの方法を紹介しつつ、アップセルとの違いについても触れましょう。仕掛けるタイミングや成功事例についても詳しく取り上げます。
アップセル・クロスセルについて
まずは、アップセルやクロスセルについて解説します。両者の意味と注目を浴びる理由について押さえてください。
クロスセルの意味
クロスセルはある商品を買おうと考えている顧客に対し、別の商品も合わせて購入してもらうセールス手法です。
例えば、ファーストフード店でハンバーガーを購入するとします。注文するとき、大半の人が店員からサイドメニューやドリンクメニューを勧められた経験があるでしょう。このように関連商品をともに提案することで、一度に複数の商品を購入してもらうチャンスが生まれます。
クロスセルのメリットは、新規顧客を開拓せずに売上を伸ばせる点です。1人の顧客に複数の商品を紹介できれば、その場では購入してもらえなくとも認知の向上に繋がります。
しかし、執拗に関連商品を勧めてしまうと、顧客に悪印象を与えかねないため注意が必要です。
アップセルの意味・クロスセルとの違いとは
クロスセルと似た言葉として、アップセルがあります。
アップセルとは、顧客が購入を検討している商品の上位モデルを勧める手法です。例えば、スマートフォンを探している顧客に対し、通常よりも高スペックなタイプを紹介するケースが該当します。
クロスセルとの違いは、機能やスペックは異なるものの同一製品をセールスする点です。
より高額な上位モデルを購入してもらえば、企業側の利益も高まります。ただしクロスセルと同じく、セールスする際には顧客の意向を汲み取らなければなりません。
アップセル・クロスセルが注目を浴びる理由とは
アップセルやクロスセルが注目を浴びる理由は、さまざまな業界で新規顧客の開拓が難しいためです。特にBtoBでターゲットが狭い場合、新規顧客を獲得するにも限界があります。したがって、顧客当たりの購入単価を上げることが重視されます。
さらに、コストの削減もアップセルやクロスセルが注目される理由の1つです。一般的に、新規顧客を獲得するよりも、既存顧客を維持した方がコストはかかりません。一から企業や商品およびサービスを理解してもらうには、さまざまな施策が必要となるためです。
既存顧客にかかるコストは、新規顧客と比べて約5倍抑えられるとも考えられています(1:5の法則)。既存顧客の離脱を防ぐ上でも、アップセルやクロスセルは重要です。
アップセル・クロスセルを仕掛ける効果的なタイミング
アップセルおよびクロスセルを仕掛けるには、タイミングを上手く見計らなければなりません。BtoBとBtoCごとに効果的なタイミングを説明します。
BtoBビジネスにおける提案タイミング
BtoBビジネスでアップセルおよびクロスセルを行う効果的なタイミングは、購入を決める直前とされています。
相手企業がシステムの導入を検討したとき、機能もセットで勧めると「ついでに買ってみよう」と考えやすくなります。相手が商品の購入に対し、ポジティブに考えているかを見極めてください。
既存顧客とのやり取りであれば、契約を継続するタイミングもおすすめです。引き続き自社と取引すると分かった段階で、関連商品や上位モデルの商品を勧めてみましょう。
「今後もお世話になるのであれば」と、顧客も話を快く聞いてくれるかもしれません。サブスクリプションを紹介するのも1つの方法です。タイミングを見極めるためにも、顧客の反応をしっかりとうかがいましょう。
BtoCビジネスにおける提案タイミング
BtoCビジネスにおける効果的な提案タイミングも、基本的にはBtoBビジネスと変わりません。顧客が商品やサービスを購入すると決めたタイミングが望ましいと考えられています。顧客の衝動買いを促す際にも、積極的に使われる手法です。
ただし、顧客一人ひとりによって性格や嗜好が異なります。アップセルやクロスセルでアプローチする際には、顧客分析を欠かさず行ってください。相手が新規顧客であれば、反応を見ながら勧めてみましょう。
ECサイトを使ってオンライン上で商品やサービスを販売するときは、関連商品を紹介するのも方法の1つです。相手が購入手続きを進めているタイミングで「こちらの商品も合わせて購入」などと訴求するといいでしょう。
アップセル・クロスセルの成功に必要な4つのポイント
アップセルとクロスセルは、提案タイミング以外にも注意すべき要素があります。特に必要なポイントを4点紹介します。
顧客の行っている事業を深く理解する
BtoBビジネス向けの企業は、相手企業の行っている事業を深く理解しなければなりません。自社の商品やサービスを提供する目的は、事業のサポートをするためです。内容を押さえていなければ、効果的な提案ができなくなります。
定期的にコミュニケーションを取りつつ、相手企業の抱える課題に目を向けましょう。その課題解決に取り組むべく、自社の商品やサービスの内容を見直します。ツールを提供しているのであれば、アップグレードを提案する方法もあります。
アップセルやクロスセルをする上では、相手企業向けの提案書の作成も重要です。具体的な改善案をまとめれば、商品やサービスの必要性を理解してもらえます。一方的にセールスするのではなく、あくまで「欲しい」と思わせることを優先してください。
顧客のロイヤリティ向上を図る
アップセルやクロスセルでアプローチするには、顧客のロイヤリティ向上を図りましょう。ロイヤリティとは、顧客の企業ブランドや商品に対する愛着を指します。商品やサービスに対する愛着が高まれば、アップセルやクロスセルの効果も発揮しやすくなります。
ただし、ロイヤリティはそう簡単に向上できるものではありません。顧客と長きにわたって関係を築きつつ、地道に信頼を獲得することが大切です。
ロイヤリティの現状を確認する方法として、アンケートが挙げられます。商品やサービスにどのような印象を持っているかを確認し、0〜10までの点数で評価してもらうといいでしょう。好意的な回答が多い場合は、アップセルやクロスセルでさらなる向上効果も期待できます。
顧客の現在の組織体制について下調べしておく
顧客の現在の組織体制を調べることも、アップセルやクロスセルにおいて重要です。組織体制が把握できれば、特に力を入れている事業も把握できます。BtoBビジネスで成果を上げたい企業は、積極的に質問しながら組織体制を押さえてください。
専門性の高いツールを販売する場合、取り扱える人が限られることもあります。その際には、どの程度の人数がツールを扱えるかを確認しなければなりません。状況に応じて、適宜紹介する商品を変更するといいでしょう。
組織体制があらかじめ分かっていれば、自社からの積極的なセールスもしやすくなります。相手顧客の運営状況を自社に置き換えて、より良いと思う商品やサービスを用意してください。
予算の適切な捻出タイミングを把握する
アップセルおよびクロスセルにおいては、相手企業が予算を捻出するタイミングも把握しなければなりません。企業は、商品やサービスを購入する前に予算を確保します。相手企業の計画に合わせ、適切な時期にアップセルやクロスセルを行いましょう。
予算が決まる時期は、決算期の1カ月前が一般的です。企業によって具体的な時期は異なるものの、多くは3月を決算期に設定します。したがって、この場合の予算が確定する時期は2月あたりです。
予算に関する話し合いは、4〜5カ月前と早めに行われます。上手く逆算してアプローチするタイミングを考えましょう。相手企業の予算策定時期を把握するためにも、定期的に連絡を取って確認してください。
成功事例に学ぶアップセル・クロスセル
アップセルとクロスセルについて、他企業の成功事例から学ぶことも必要です。「株式会社 大塚商会」と「Salesforce」の事例を紹介します。
【アップセル】株式会社 大塚商会
「株式会社 大塚商会」は、企業および個人向けにITサポートを提供しています。法人向けの通販サイト「たのめーる」や組織の効率化を支援する「たよれーる」が魅力です。
当該会社は、アップセルを行うために独自のCRM(顧客関係管理)を開発しました。具体的には顧客の基本情報を共有したり、購入履歴を分析したりする機能が備わっています。
これらの情報を営業担当者に伝え、一人ひとりの顧客に合った商品やサービスを提供できるようになります。正確にデータを共有するため、担当者全員にiPadを連携させたことも特徴の1つです。
結果的に、営業においてアップセルを生かしたアプローチが主流となります。制度を導入した2004年から、10年で売上額を約2億円伸ばしました。
【クロスセル】Salesforce
「Saleforce」は、クロスセルで営業において独自のアプローチ法を実践します。営業で特に重視されるのが、上述したCRMです。「Saleforce」の特徴として、サービスの幅広さが挙げられます。マーケティング施策やカスタマーサービスのサポートも提供しています。
本来企業において、基本的に全ての部署で、顧客情報が必要です。しかし、営業部とマーケティング部のように、複数の部署で必要な情報が共有できていないケースもあります。こうした課題を改善すべく、それぞれの部署で使用されている顧客管理に必要なツールを社内で連携することをクロスセルで勧めています。
全ての部署が、連携して顧客をサポートするのが「Saleforce」独自のクロスセルです。当該企業の事業における代表的な製品として、CRM用のプラットフォーム(Customer360°)が挙げられます。
顧客を理解することでクロスセル営業の成功へ
クロスセル営業を成功に導くには、顧客を理解することが大切です。顧客のニーズを把握し、常に最善の関連商品およびサービスを提供するよう心がけましょう。積極的にコミュニケーションを取り、相手が求めているものを見極めなければなりません。
クロスセルに限った話ではありませんが、セールスする上では顧客に足りない要素を見つけることが重要です。押し売りでアプローチしても、売上数には良い影響を与えません。むしろ、悪印象を与える恐れもあります。
顧客はあくまで、自社にとって得をする商品やサービスを求めています。クロスセルでアプローチするのであれば、顧客の立場に立って考える姿勢を忘れてはいけません。お互いにメリットを享受し合い、長期的な関係を構築しましょう。
【実践編】コンバージョンはゴールですか?実はおろそかにされがちな「営業の対応」
クロスセルを検討した際、重要なのはWeb側の施策だけではなく、営業の対応も非常に重要だと言うことが意外と忘れられがちです。
営業の現場でも「ネットから問い合わせがきたから電話した」というシンプルな対応だけをして、その後何もしないケースを数多くみてきました。
ネット広告の主要な目標は、ターゲットユーザーを顧客に変えることです。
コンバージョンはその第一歩であり、興味を持ったユーザーが行動に移る段階を示します。
これに対して、営業のクロージングは、コンバージョンを実際の売り上げや契約締結に結びつける段階です。
この段階で営業チームが重要な役割を果たし、コンバージョンしたリードや顧客とのコミュニケーションを取ります。
Webからの顧客データ分析は、コンバージョンとクロージングの成功率を測定し、改善するためには不可欠な工程です。
広告キャンペーンからのコンバージョンデータを営業チームに提供し、どのリードが最も購買意欲が高いかを特定するのに役立ちます。
特にクロスセルのケースでは、データと営業との連携は欠かせません。
既存顧客がどのサービスを保有していて、何を求めているのかを知らないままでクロージングをかけてしまうと高い確率で失注してしまいます。
クロスセルに限った話ではありませんが、より効果的なクロージングの取り組みのために、オンラインのデータと営業の行動は必ず結びつけておくようにしましょう。
まとめ
この記事では、クロスセルの概要とアップセルとの違いについて紹介しました。双方とも、自社の売上を伸ばす上で重要なセールス手法です。新規顧客を開拓するよりもコストを削減しつつ、既存顧客の離脱も防げます。
ただし、クロスセルとアップセルは仕掛けるタイミングが大切です。タイミングを誤ると、逆効果にもなりかねないため注意してください。